妊娠中に髪が抜ける原因と対策|産後の抜け毛についても解説【医師監修】
- 2025.8.8
- m.i journal vol.10
- コラム

眞鍋 憲正さんスポーツドクター・運動生理学研究者
信州大学医学部を卒業後、同大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座博士課程を修了。米国UT Southwestern Medical Centerの内科部門およびInstitute for Exercise and Environmental MedicineにVisiting Senior Scholarとして招かれ、さらにUT Austin Faculty of Education and KinesiologyのCardiovascular Aging Research LabでもVisiting Scholarとして心血管老化と運動生理学の研究に従事。研究分野は運動生理学を中心に、スポーツ医学・健康スポーツ医療、心血管老化研究を含む幅広い領域をカバーしている。日本体育協会スポーツドクターおよび日本医師会健康スポーツ医の資格を有し、現在はThe University of Texas at Austin(UT Austin)に所属しながら、臨床と研究の両面で地域および国際的なスポーツ健康科学の発展に貢献している。
妊娠中なのに髪が抜けて不安…。そんな声は珍しくありません。実は、妊娠や出産による体の変化が髪にも影響を与えることがあります。本記事では医師監修の元、抜け毛の理由や日常生活でできる対策、そして回復までの目安についてご紹介します。
妊娠中は抜け毛が減るって本当?その理由と例外とは
妊娠中は「髪が抜けにくくなる」と耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。実際に、そうした変化を感じたという声もあります。ただ、全ての人に当てはまるわけではなく、逆に抜け毛が気になり始める方もいます。ここでは、妊娠中に髪が抜けにくくなる理由と、それでも抜け毛が増えてしまう場合の背景についてご紹介します。
妊娠中に髪が抜けにくくなるメカニズム
妊娠中の女性の体は、赤ちゃんを守り育てるために、さまざまな変化を起こします。中でも「女性ホルモン」のひとつであるエストロゲンの分泌量が増えることは、その大きな特徴の一つです。
このエストロゲンは、髪の成長サイクルの中でも「成長期」を長く保つ働きがあるといわれています。本来ならば一定のタイミングで自然に抜け落ちる髪も、エストロゲンの影響で成長期が持続し、抜けにくくなるという仕組みです。そのため、妊娠中に髪にボリュームが出たり、抜け毛が減ったように感じたりする方が一定数いるのは、このホルモンの作用によるものだと考えられています。
それでも抜け毛が増える人がいるのはなぜ?
一方で、「妊娠してから髪が抜けやすくなった」と感じる方も少なくありません。この場合、体の中で何かしらのサインが出ている可能性があります。妊娠中は本来、髪が抜けにくくなる時期とされていますが、実際には抜け毛が気になる方も少なくありません。それは体からのサインとして現れている可能性があります。原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって起きていることもあります。このあと、妊娠中の抜け毛に関わる主な原因を具体的に整理していきます。
妊娠中に髪が抜ける主な原因とは?
抜け毛が目立つようになる背景には、いくつかの要因が重なっている可能性があります。ここでは、主な原因について解説します。
ホルモンバランスの急激な変化
妊娠中は、女性ホルモンの分泌量が大きく変化します。特に「エストロゲン」や「プロゲステロン」といったホルモンは、妊娠の維持や胎児の成長に関わる大切な役割を果たしています。
これらのホルモンは髪の成長とも深く関係しており、バランスが崩れると、毛根の働きが不安定になることがあります。その結果、成長期だった髪が一時的に休止期へ移行し、抜け毛が増えるという現象につながるのです。ホルモン変化は避けられないものですが、体が徐々に慣れてくることで落ち着いていくケースもあります。
妊娠による栄養不足
妊娠中は、赤ちゃんに必要な栄養が優先的に送られるようになります。そのため、母体側の栄養が不足しがちになることがあります。
特に、ヨウ素、たんぱく質、ビタミン、亜鉛など、髪の成長に必要な栄養素が足りなくなると、髪のハリやコシがなくなり、抜け毛が増える要因となります。偏った食事や、つわりによる食欲不振なども影響しやすいので、できる範囲で栄養バランスに気をつけることが大切です。
鉄分不足と貧血
妊娠中は血液の量が増える一方で、鉄分の消費も多くなります。そのため、貧血気味になる方が少なくありません。
鉄分が不足すると、血液中のヘモグロビンが減り、全身に酸素を運ぶ力が弱まってしまいます。頭皮もその影響を受けやすく、酸素や栄養が十分に届かなくなると、髪の成長が滞り、抜けやすくなることがあります。医師の指導のもと、必要に応じて鉄分の補給を行うことも一つの方法です。
甲状腺機能の変化
妊娠中はヨウ素不足とホルモン全体のバランスが変わることで、甲状腺の働きにも影響が出る場合があります。
甲状腺は、代謝や体温の調整に関わるホルモンを出しており、このホルモンはヨウ素を必要とします。妊娠期にこの栄養素が欠乏するとその機能が低下したり、逆に過剰になったりすると、髪や肌の状態に変化があらわれることがあります。抜け毛が増えるのも、その一つのサインといえるでしょう。体のだるさや動悸、発汗の変化など、他の不調を感じるときは、早めに医師へ相談してみると安心です。
脱毛症による症状の可能性
妊娠中のストレスやホルモン変化が重なることで、「円形脱毛症」などの脱毛症状が起こる場合もあります。円形脱毛症は、自己免疫の働きが影響して、特定の部分だけ髪が抜けてしまう症状です。急に一部分が薄くなったり、円形に毛が抜けたりするのが特徴です。
また、加齢や体質、ホルモンの影響などによって起こる「女性型脱毛症(FAGA)」も、妊娠期や産後に目立ちやすくなることがあります。どちらも、自己判断せず、気になるときは専門の医師に相談してみましょう。
妊娠中にできる髪の抜け毛対策
妊娠中は体の変化が大きく、頭皮や髪もゆらぎやすくなります。ただし、抜け毛が気になるからといってすぐに心配しすぎる必要はありません。できることから少しずつ、やさしくケアしていくことで、心と髪の負担を軽くすることができます。ここでは、日々の生活の中で取り入れやすい対策をご紹介します。
食生活の見直しと必要な栄養素
髪の健康を保つためには、まず体の内側からのケアが欠かせません。特に妊娠中は、赤ちゃんに栄養が優先されるため、母体側の栄養が不足しやすくなります。
髪の主成分であるたんぱく質をはじめ、血行を促す鉄分や、細胞の働きを支えるビタミン類、亜鉛などのミネラルも大切です。野菜・肉・魚・卵など、バランスの取れた食事を心がけることが基本となります。つわりで食事が難しいときは、無理をせず、食べられるものから少しずつ。必要であれば医師と相談しながら、サプリメントを活用するのも一つの方法です。
頭皮環境を整える日常ケア
髪の土台となる頭皮が整っていないと、髪は健やかに育ちにくくなります。シャンプーやトリートメントを使うときは、なるべくやさしい洗浄力のものを選び、頭皮を傷つけないように洗いましょう。
お湯で軽くすすいでから泡立てたシャンプーで、指の腹を使ってやさしく洗うのがポイントです。洗い残しがないようにしっかり流し、ドライヤーで根元から丁寧に乾かすことも大切です。フケやかゆみ、乾燥が気になる場合は、低刺激の頭皮用ケアアイテムを取り入れてみるのもよいでしょう。
頭皮マッサージで血行促進
血の巡りが滞ると、髪の根元まで酸素や栄養が届きにくくなり、抜け毛が増える原因になることがあります。そんなときは、やさしい頭皮マッサージを日常に取り入れてみましょう。
指の腹でゆっくり円を描くように動かしながら、こめかみや頭頂部を刺激すると、頭皮がじんわり温まってきます。お風呂上がりやリラックスタイムに取り入れると、心のリフレッシュにもつながります。強くこすらず、心地よさを感じるくらいの力加減で続けるのがコツです。
髪型を変えて見た目と気分をカバー
抜け毛が気になるときは、髪型を変えてみるのもひとつの方法です。髪を少し短く整えるだけでも、ボリューム感が出やすくなり、気になる部分が目立ちにくくなることがあります。
特にショートカットやレイヤーを入れたスタイルは、全体の印象がふんわりして見えるため、気分のリフレッシュにもつながるでしょう。ただし、髪を強く結んだり、引っ張るようなスタイルは、頭皮への刺激になりやすいため避けたほうが安心です。気持ちが少しでも前向きになるような、自分らしい髪型を見つけてみてください。
妊娠中の抜け毛はいつまで続くの?
抜け毛の状態や感じ方には個人差があり、体調や栄養状態、頭皮環境などさまざまな要因が重なることで、妊娠中にも髪が抜けやすくなることがあります。ここでは、抜け毛が始まる時期やその後の変化、そして頭髪以外に見られる変化について、わかりやすく整理していきます。
抜け毛が増え始める時期と回復まで
妊娠中は女性ホルモンの影響で、髪の生え変わりのサイクルが一時的に変化します。多くの方は抜け毛が減ったと感じる一方で、体調の変化や生活習慣の影響により、抜け毛が気になり始める方もいます。
特につわりや食欲不振によって栄養が偏ると、髪の成長に必要な成分が不足し、抜け毛が起こりやすくなります。また、ホルモンバランスの揺らぎや睡眠不足、頭皮環境の乱れも影響すると考えられています。
妊娠中に気になる抜け毛も、出産を経てホルモンが落ち着くことで、少しずつ回復へ向かうことが一般的です。産後の抜け毛と合わせて半年〜1年ほどで元の状態に戻るケースが多く、過度に心配しすぎず、体全体のケアを意識して過ごすことが大切です。
眉毛やまつ毛が抜けるケースもある?
妊娠や出産を機に抜け毛が気になり始めた方のなかには、「眉毛やまつ毛まで薄くなった気がする」と感じる方もいます。頭髪以外の部分に変化が見られることも珍しくありません。
これは、ホルモンの急激な変化だけでなく、からだ全体の栄養バランスや代謝の変化、ストレスなどが複合的に影響していると考えられています。とくに妊娠後期や産後の時期は、心身の回復にエネルギーが使われやすいため、眉やまつ毛といった細かな部位にも影響が出やすくなることがあります。
ほとんどの場合、時間の経過とともに自然に回復していくため、心配しすぎる必要はありません。ただし、長期間にわたって改善が見られない場合や、他の体調不良が続く場合には、専門機関への相談も検討してみましょう。
妊娠・産後の抜け毛で注意したい生活習慣
妊娠中や産後は、生活リズムが大きく変化することで、体調や髪の状態にも影響が出やすくなります。抜け毛が気になる時期こそ、無理のない範囲で生活習慣を見直してみることが大切です。ここでは、髪の健康を守るために意識しておきたいポイントをご紹介します。
睡眠不足の改善とストレス対策
出産後は授乳や夜泣きなどが続き、思うように眠れない日々が続くこともあります。慢性的な睡眠不足は、ホルモンバランスや自律神経の乱れを引き起こし、抜け毛を助長する原因になることがあります。
理想の睡眠時間が取れない場合でも、短時間の昼寝を取り入れたり、家族の協力を得たりすることで、少しでも休息できる時間を確保してみましょう。また、ストレスがたまると血行が悪くなり、髪に十分な栄養が届きにくくなることもあります。完璧を目指さず、「がんばりすぎなくて大丈夫」と自分にやさしい気持ちを向けることも、健やかな髪と心のために大切なことです。
無理なダイエットは髪にもNG
妊娠中や産後は体型の変化が気になる時期ですが、過度なダイエットは体に負担をかけるだけでなく、髪の健康にも影響を与えます。
急激に体重を減らそうとすると、必要な栄養が不足し、髪の成長に必要なエネルギーが届かなくなってしまいます。特に、たんぱく質や鉄分、ビタミン類が不足すると、髪が細くなったり抜けやすくなったりすることがあります。体型を整えたいときは、医師や栄養士に相談しながら、少しずつバランスよく進めることが安心です。
セルフケアで改善しないときは?
妊娠中や産後の抜け毛は、一時的な変化として自然に回復していくことが多いですが、なかにはセルフケアだけでは改善が見られないケースもあります。そうしたときは、ひとりで抱え込まずに専門家の手を借りることも大切です。ここでは、医療機関への相談や、育毛剤の選び方についてご紹介します。
医師への相談が必要なケース
抜け毛の量が極端に多かったり、頭皮の一部だけがはっきりと薄くなっていたりする場合は、ホルモンバランス以外の要因が関係している可能性もあります。特に、円形脱毛症のように一部の髪が突然抜ける症状や、FAGA(女性型脱毛症)と呼ばれる進行性の脱毛が疑われる場合は、自己判断での対処は難しくなります。
また、疲れや不眠、イライラなど、心身の不調が続いているときも、抜け毛が悪化しやすくなることがあります。気になる症状があるときは、無理をせず、かかりつけの産婦人科や皮膚科、専門のクリニックに相談してみましょう。早めに相談することで、安心して過ごせる時間を取り戻せることもあります。
育毛剤の使用と選び方
セルフケアのひとつとして、市販の育毛剤を取り入れてみたいと考える方もいるかもしれません。しかし、妊娠中や授乳中に使用する場合は、事前に医師に相談するようにしてください。
育毛剤には、頭皮をすこやかに保ち、環境を整える働きが期待できます。選ぶ際は、「低刺激」や「無添加」といった表示がある、敏感な時期にも使いやすいタイプを選ぶと安心です。また、香りや使用感など、日常のケアに無理なく取り入れられるかどうかも大切なポイントになります。自分に合った育毛剤を見つけ、心地よく続けられるケアを取り入れていきましょう。
妊娠中や産後の髪の悩みQ&A
妊娠中や産後は、体だけでなく髪の状態にも思いがけない変化があらわれやすい時期です。ここでは、よく寄せられる髪にまつわる疑問について、わかりやすくお答えします。
妊娠中に髪がパサパサになるのはなぜ?
妊娠中に髪のパサつきや広がりを感じる方は少なくありません。主な原因として、栄養バランスの乱れや血行不良が考えられます。
赤ちゃんに栄養が優先されることで、髪の成長に必要な栄養素が不足しやすくなることがあります。また、体の変化やストレス、疲れによって血のめぐりが悪くなると、頭皮や髪に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。こうした状態が続くと、髪の水分保持力が落ちてしまい、乾燥やごわつきにつながることがあります。無理のない範囲で栄養をとり、頭皮ケアなどを取り入れることで、徐々に改善を目指すことができます。
妊娠中に髪型を変えるのは効果的?
妊娠中は抜け毛や髪のまとまりにくさが気になることがありますが、髪型を変えることで気分転換にもなり、気になる部分をやさしくカバーできる場合もあります。
たとえば、全体を軽く整えたり、短めにカットすることで、髪のボリューム感が出やすくなります。スタイリングの手間も減るため、忙しい時期には過ごしやすくなるでしょう。ただし、ポニーテールや強く結ぶスタイルは、頭皮への負担が大きくなり、抜け毛を引き起こすことがあるため注意が必要です。
出産後脱毛症は自然に治るの?
出産後に見られる脱毛は「産後脱毛症」または「分娩後脱毛症」と呼ばれ、多くの場合は一時的なものとされています。
出産をきっかけにホルモンのバランスが大きく変わることで、成長していた髪が一斉に休止期へ入り、その後自然に抜け落ちていく流れとなります。これは体が元の状態に戻る過程のひとつであり、病気ではありません。通常は半年から1年ほどで回復に向かうといわれています。抜け毛が気になる間も、髪は少しずつ生え変わっていますので、焦らずゆったりと過ごすことが大切です。
まとめ
妊娠や出産を経験する中で、髪の状態が変わっていくことに戸惑う方は少なくありません。抜け毛に気づいたとき、「何かがおかしいのでは」と不安になることもあると思います。でもそれは、体が大きな役割を果たしている証でもあります。
ホルモンの働き、栄養の変化、生活リズムのゆらぎ——全てが日々を一生懸命に生きているからこそ起きている、自然なプロセスなのかもしれません。m.i(ミィ)は、“しょいこみ期”に訪れる小さな変化にも、やさしく寄り添い続けます。