Vol.47

産婦人科医が教える!女性の働きやすい環境をつくる生理・更年期の知識

  • 2026.2.25
  • m.i journal vol.47
  • コラム

八田 真理子さん聖順会ジュノ・ヴェスタ クリニック 八田
理事長・院長

1965年7月生まれ。千葉県松戸市出身。産婦人科医。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、順天堂大学、千葉大学、松戸市立病院産婦人科勤務を経て、1998年実父が開院した「八田産婦人科」を継承し、地域に密着したクリニック「ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」として開院。思春期から老年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行っている。1日80人以上の患者さんを診察し、女性のヘルスケアに関する相談会やセミナーなどを通じて、性教育・不妊・更年期などの正しい知識の啓蒙にも積極的に取り組んでいる。著書に『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)、『思春期女子のからだと心 Q&A』(労働教育センター)など。

知っておきたい!年齢とともに変化する女性ホルモンのこと

みなさんは女性ホルモンによって、どのような心身の不調が起こるかご存じですか?小中学生のころ、保健の先生に習ったぼんやりとした記憶しかないという方も多いのでは。まずは基礎知識として、女性に起こる心身の変化についてお聞きました。

女性の身体は、年齢とともにどのように変化するのでしょうか。

八田先生:

女性は12〜13歳ごろから月経(生理のこと)が始まり、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)の量が上昇します。女性ホルモンの分泌量は20〜30代でピークを迎え、その後、閉経に向けて徐々に低下していきます。

女性ホルモンは女性らしい丸みのある体づくりに加え、肌のハリや骨の健康、自律神経の安定、血管や代謝サポートといった役割を果たす、守り神のような存在です。その一方で、心身を大きく翻弄する存在でもあります。

ちなみに男性にも女性ホルモンは分泌されますが、女性ほどダイナミックに変化することはありません。一定のリズムで過ごせる男性に憧れるときもありますよね。しかし女性はホルモンの波があることで、情緒が豊かになり、子どもを育むことができるのです。

月経=妊娠するための準備

ライフプランに応じて向き合い方を考えてみて

まずは月経について教えてください。

八田先生:

月経というのは、排卵して妊娠に備えて厚くなった子宮内膜が、受精しなかった場合に剥がれ落ちて血液とともに体外へ排出されることです。つまり妊娠の準備ができているのに、妊娠しなかったことで起こります。

戦前の日本では15歳前後で初潮を迎えると、結婚して子どもを複数人産んでから閉経を迎えるという傾向にありました。妊娠・授乳中は月経が止まるため、たくさん子どもを産んでいると月経の回数は少なくなります。しかし現代は女性の社会進出が進み、出産をするか、しないかは人それぞれです。また出産したとしても、回数は大幅に減少しています。その結果、現代女性の生涯の月経の回数はかつてと比べて9〜10倍の約450〜500回に増えていると言われるほどです。

そういったことから、毎月の月経がつらくなっている人が増えていると考えられます。月経に伴う心身の不調として、月経前症候群(PMS)や月経痛、月経困難症があげられ、人によって症状はさまざまです。

月経前も、月経中も不調という方にとって、1か月の中でも調子がいいのは妊娠しやすい時期(排卵期)のわずか数日だけということもあります。

 

▼月経に伴う心身の不調

月経前症候群(PMS)・・・月経が始まる3〜10日ほど前から感じる心身の不調。イライラや気分の落ち込み、お腹の張り、頭痛、乳房の痛みなど、症状は200種類以上とも言われている。月経が始まると、落ち着く。

月経痛・・・月経による下腹部や腰などの痛み。

月経困難症・・・下腹部や腰などの痛みに加え、頭痛や吐き気、倦怠感、イライラ、気分の落ち込みなどで、日常生活に支障が出るほどの強い症状。

 

ちなみに厚生労働省のデータでは、月経がひどいという女性は約8割、学校や仕事を休むほどの月経困難症があるという方は約3割と明らかになっています。そして8〜9割が月経前症候群(PMS)によって何らかの不調を抱えているとも言われています。

たくさんの女性が従事するサービス業の多くは立ち仕事ですし、勤務中はお手洗いに行きにくいこともあるでしょう。月経でお腹が痛くても薬を飲みに行けなかったり、休めなかったり、お客さまを相手にする仕事だからこその大変さがあると思います。

「月経は毎月来るものだから」と、我慢してなんとかやり過ごしている人も多いと思います。

八田先生:

学校で保健室の先生から教わった月経の知識をアップデートする機会が少ないと感じています。何のために月経があるのかを考えることって、なかなかないですよね。けれども、これだけ働く女性が増え、子どもを持たないことも選択肢の一つになった今では、月経を休むのもありなんです。低用量ピルや、月経困難症治療薬である低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP)を服用することで、コントロールが可能です。

月経を休むことで妊娠しづらくなることはありませんか?

八田先生:

低用量ピルや低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP)は服用している間だけ、排卵を休ませて避妊ができます。服用を止めてから3か月以内は排卵率が高くなるので、妊娠しやすくなりますよ。

子どもを産むか、産まないかは自由ですし、今は月経を休むことができる時代です。産みたいという方は、いつ頃までに何人ぐらい欲しいのか、ご自身の中でプランをたてて月経と向き合うと良いと思います。

患者さまを診察する中で多いのが、働いている女性でいつかは妊娠するかなと思っていたら毎月の月経がだんだんつらくなって、夫婦生活があるのに妊娠しないケースです。月経困難症の先にある子宮内膜症が発症していて、不妊症になっている可能性があります。ちなみに1年間妊娠しない場合に不妊症と診断されます。こういったことからも、月経によって生じるつらさを我慢しないことが大切ですし、婦人科を受診していただきたいですね。

更年期は人生100年時代の折り返し地点

リセットして開放感に満ちた日々へ

さて、更年期についても教えてください。

八田先生:

女性ホルモンは30代後半から徐々に低下していきます。更年期は45歳ごろから55歳前後と言われ、女性ホルモンが一直線にではなくアップダウンしながら減っていきます。

1番最初に起こる更年期の症状は月経不順です。28日周期で来ていたものが、3週間と短くなったり、2〜3か月空いたりします。それとともに、肩こりや腰痛、手の痛みが現れます。理美容師さんはとくに手の痛みが多いと聞きます。あとは不眠やイライラなどもあげられますが、実は更年期の症状は300種類ぐらいあります。

40代半ばから起こる女性の更年期には、親の介護や夫の単身赴任、お子さまの反抗期といったご家族の変化が重なってしまうことも多いです。

また働いていると昇進や後進の育成など仕事量が増えるタイミングとも重なるかもしれません。

更年期の過酷さに注目されることも増えましたね。

八田先生:

過酷に聞こえるかもしれませんが、私はよく更年期こそ人生の折り返し地点だとお話ししています。人生100年時代ですから、50歳はフルマラソンでいうと21km地点です。それまでの生活習慣の悪いところをリセットして、再スタートを切れる時期なんです。

私自身もそうでしたが、女性ホルモンという守り神がなくなって、身体の不調が起きて、このままではまずいと食事にこだわったり、定期的に運動をしたり。更年期をきっかけに生活を見つめ直したことで、月経があったときよりも元気に過ごせています。

立ち仕事特有の冷えやむくみは毎日のセルフケア次第で軽やかに

基礎知識に続いて、立ち仕事をする女性特有の身体の不調を八田先生に聞いたところ、注意すべきは冷えとむくみだと話します。

立ちっぱなしでいると血流が悪くなり、冷えやむくみが生じやすくなります。ふくらはぎを圧迫するような靴下や、指圧してくれるようなインソール、身体を温める腹巻きを使うと良いでしょう。

そもそも男性と比べて女性は筋肉が少ないため、血流が悪くなりがちです。寝る前に5分でも良いので、筋トレやストレッチをセルフケアとして取り入れてみては。シャワーで済ますのではなく、湯船に浸かって温まるのもおすすめです。

タカラベルモントが運営する理美容師さま向けの情報サイト「TB-PLUS」では、「産婦人科医が回答! 理美容師が抱える月経・更年期にまつわるQ&A」を公開しています。理美容師の方々から寄せられた女性の心身の不調にまつわる質問に八田先生にご回答いただきました。職業は違えど、働く女性にとって参考になるアドバイスが盛りだくさんなので、興味のある方はぜひご覧ください。

働きやすい職場づくりのヒントを理美容業界のリアル調査から探る

サービス業は女性の比率が高いとはいえ、男性とともに働くこともあるでしょう。

そこで、全国の理美容師180名(女性:86名、男性:94名)から回答を得たタカラベルモントによるオンラインアンケートの結果をご紹介します。女性特有の体調やメンタルの不調にまつわる内容でしたが、男性の回答数が上回る結果に。女性が多く働く業界だからこその関心度の高さが伺えました。

※期間(2025年10月20日〜24日)

 

回答を見ていくと、女性特有の体調やメンタル不調などで、仕事に支障を感じたことがある女性は約8割に上りました(データ①)。とくに多かったのは月経のお悩みで、「トイレが男女共有でナプキンを12時間以上変えられないことがあった」や「月経中やその前後は重い腹痛や頭痛、腰痛で立っているのがつらい」といったコメントが寄せられました。

データ①

データ①

 

職場環境について、「体調不良時に職場で気を遣ってもらえた経験がある」と答えた女性は約6割に上りました(データ②)。一方で「相談しやすい雰囲気づくりができているか」という質問には、女性は「ある」「ややある」で約6割(データ③)、男性は「ある」が約3割(データ④)と、男女間で違いが見られました。

データ②

データ②

データ③

データ③

データ④

データ④

 

女性特有の体調やメンタルの不調について、「理解できている」「やや理解できている」という男性は6割超(データ⑤)、「もっと理解を深めたい」と思う」はほぼ全員(データ⑥)と関心が高い一方で、8割が「理解することの難しさ」を感じている(データ⑦)ようです。

つまり、理解を深めたい気持ちと同時に難しさを感じている男性が大多数という実態が見えてきました。

データ⑤

データ⑤

データ⑥

データ⑥

データ⑦

データ⑦

 

八田先生「女性特有の体調やメンタル不調は男性には経験できないことなので、見守ってあげて欲しいですね。多くの女性は、何か特別なことをしてもらいたいわけではないと思います。女性には月経や更年期といったホルモンバランスの波があることを理解してもらえると良いとでしょう。また話しやすい環境づくりには、日頃からコミュニケーションをとることが大切ですね」

なお女性同士であっても、過半数が「年齢層が違う女性との間で理解のギャップを感じたことがある」と回答しています(データ⑧)。年齢とともにホルモンバランスが大きく変化する女性の身体を理解することは、同性であっても難しいことと言えるでしょう。

データ⑧

データ⑧

 

「理解が広がるために必要だと思うこと」については、男女ともに「情報や知識を得やすい環境」と「オープンなコミュニケーション」が上位にあがりました。(データ⑨⑩)

データ⑨

データ⑨

データ⑩

データ⑩

 

年齢とともにホルモンバランスによって大きく変化する女性の身体。正しい知識を持ち、性別や年齢に関わらずお互いに理解し合える職場であれば、不調ともうまく付き合うことができるはずです。

「近年は、月経や更年期に対する治療の選択肢が増えました。つらい月経や更年期を一人で抱え込むのではなく、ぜひ産婦人科を受診していただきたいです。正確な情報をキャッチしていただき、一歩一歩ともに前進していきましょう」(八田先生)

まずはすぐにできるセルフチェックからはじめて、ご自身にあうケアを取り入れてみてください。少しでも働きやすくなり、心と身体の余裕につながることを願っています。