Vol.09

妊娠中に髪が伸びる原因とは?ホルモンの影響や生活習慣【医師監修】

  • 2025.8.6
  • m.i journal vol.09
  • コラム

眞鍋 憲正さんスポーツドクター・運動生理学研究者

信州大学医学部を卒業後、同大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座博士課程を修了。米国UT Southwestern Medical Centerの内科部門およびInstitute for Exercise and Environmental MedicineにVisiting Senior Scholarとして招かれ、さらにUT Austin Faculty of Education and KinesiologyのCardiovascular Aging Research LabでもVisiting Scholarとして心血管老化と運動生理学の研究に従事。研究分野は運動生理学を中心に、スポーツ医学・健康スポーツ医療、心血管老化研究を含む幅広い領域をカバーしている。日本体育協会スポーツドクターおよび日本医師会健康スポーツ医の資格を有し、現在はThe University of Texas at Austin(UT Austin)に所属しながら、臨床と研究の両面で地域および国際的なスポーツ健康科学の発展に貢献している。

「妊娠してから髪の伸びが早くなった気がする」──そんな変化を感じたことはありませんか?妊娠中の女性の体には、目には見えにくいさまざまな変化が起こっており、ホルモンバランスの変化や生活習慣の違いが、髪の成長スピードにも影響を与えることがあります。この記事では、妊娠中に髪が伸びやすくなる理由について解説します。

妊娠中に「髪が伸びる」と感じるのはなぜ?

妊娠してから髪がよく伸びている気がする、そんな変化を実感する方は少なくありません。この時期の髪の変化には、体の中で起きているホルモンの働きが大きく関係しています。ここでは、妊娠中に髪が伸びやすくなる理由について整理していきます。

妊娠期に起こるホルモンバランスの大きな変化

妊娠中は、体の中でさまざまなホルモンが活発に分泌されるようになります。特に「エストロゲン」と呼ばれる女性ホルモンの増加が、髪の成長に深くかかわっているといわれています。

エストロゲンには、髪の成長期を長く保つ働きがあると考えられています。このホルモンの影響により、髪が成長を続けやすい状態が保たれるため、「伸びている」と感じることがあります。

このように、妊娠中の体は、普段とは異なるバランスでホルモンを調整しており、その変化が髪にも表れています。

髪の「抜けにくさ」で伸びたように感じる

妊娠中は、髪が抜けにくくなることも特徴の一つです。本来、髪には一定の周期があり、自然に生え変わるサイクルがあります。しかし、エストロゲンの影響でこの周期が一時的に変わり、髪の「抜ける時期」が遅れることがあります。

抜け毛が減ると、その分髪が長く伸びているように感じることがあります。これは「実際に伸びている」ことに加えて、「いつもより髪が抜けない」という変化が重なって起こる現象です。特にブラッシングやシャンプーの際に抜け毛が少ないと、髪が増えたように感じることもあり、視覚的な印象も、髪がよく伸びていると感じる一因になっていると考えられています。

実際の伸びと印象の違い|髪のサイクルを知ろう

髪には「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルがあります。このうち、髪が実際に伸びているのは「成長期」の間だけです。妊娠中は、この成長期が長く保たれることで、髪の成長が促されやすくなるといわれています。また、休止期に入る髪が少ないことで、全体的に毛量が増えたように見えることもあります。

実際の伸び幅は月に1cmほどといわれており、通常のサイクルでも大きく変わることはありません。しかし、抜け毛が減ることで「ボリュームが増えた」「髪がしっかりしてきた」と感じる人も多くいます。このように、妊娠中の髪の変化は、伸びた長さだけでなく、見た目や感触の変化も関係しています。

 

妊娠中に「髪が伸びない」と感じるのはどんなとき?

妊娠中は髪が伸びやすいといわれる一方で、「あまり伸びていない気がする」と感じる方もいます。その背景には、ホルモンの分泌や生活環境など、いくつかの要因が重なっている場合があります。ここでは、髪が伸びにくいと感じる主な理由について見ていきましょう。

ホルモン分泌に個人差があるため

妊娠中の体では、女性ホルモンが増えることで髪の成長期が長く保たれやすくなります。しかし、ホルモンの分泌量や反応の仕方には個人差があります。体質や体調、妊娠の時期によっては、ホルモンの影響を受けにくいこともあります。また、妊娠前からホルモンバランスが不安定だった場合は、髪の伸びを実感しにくいことも考えられます。

栄養不足やストレスで髪の成長が停滞することも

妊娠中は赤ちゃんの成長を支えるため、普段以上に栄養が必要になります。その一方で、つわりや体調の変化により、食事が思うようにとれない時期もあります。

栄養が不足すると、身体はまず生命維持に関わる部分を優先し、髪や爪などの末端部分は後回しになります。その結果、髪に十分な栄養が届かず、成長のスピードが落ちることがあります。また、妊娠中は環境の変化や不安、体の不調からストレスを感じやすくなります。強いストレスは血行不良を招くことがあり、これも髪の成長に影響する原因の一つです。

頭皮環境の悪化やケア不足も影響

妊娠中はホルモンの変化により、頭皮の皮脂分泌が増えることがあります。皮脂が多くなると毛穴が詰まりやすくなり、髪の成長を妨げることがあります。

また、体調がすぐれない日が続くと、いつも通りのヘアケアができなくなることもあるかもしれません。洗髪の頻度が減ったり、シャンプーを十分に泡立てられなかったりすると、頭皮の汚れがしっかり落とせなくなります。その結果、皮脂や汗、ホコリなどが毛穴にたまり、頭皮の環境が乱れやすくなってしまいます。

髪の成長が鈍る妊娠後期のケースも

妊娠後期に入ると、お腹が大きくなって睡眠が浅くなったり、体力が消耗しやすくなったりします。それに伴って、髪の成長が緩やかになることもあります。

また、出産に向けてホルモンのバランスが変わり始める時期でもあります。このような変化が影響し、妊娠初期〜中期と比べて髪の伸びを感じにくくなる場合もあります。こうした変化は一時的なもので、出産後にはまた違った状態へと移行していきます。必要以上に気にしすぎず、体調や気分に合わせたやさしいケアを続けていくことが大切です。

 

妊娠中に髪がよく伸びたときのケアポイント

妊娠中はホルモンの働きにより、髪が伸びやすくなる方もいます。せっかくの変化を前向きに楽しむためには、髪をいたわる日々のケアが欠かせません。ここでは、妊娠期に取り入れやすいヘアケアの習慣と、アイテム選びの工夫についてご紹介します。

髪と頭皮をやさしく扱うことが大切

髪が伸びるスピードが早くなると、毛先が傷みやすくなったり、絡まりやすくなったりすることがあります。 そのため、毎日のシャンプーやスタイリングでは、髪と頭皮をいたわる意識が大切です。ちょっとした工夫で、髪への負担をぐっと減らすことができます。

シャンプーやドライ方法の見直し

シャンプーは手のひらでしっかり泡立ててから使うようにしましょう。泡を使って、頭皮全体を指の腹でやさしくなでるように洗うと、負担をかけずに汚れを落とせます。洗い終えたら、髪の水分をタオルで押さえるようにして拭き取ります。ごしごしと強くこすらず、やさしく包むように拭くのがポイントです。

ドライヤーは根元から毛先に向けて、髪の流れに沿って風を当てるようにしましょう。部分的に熱を当てすぎると、髪が乾燥してパサつきやすくなります。ドライ後に手ぐしで整えるだけでも、髪への負担をやわらげることができます。

頭皮をいたわるマッサージや保湿ケア

髪の土台となる頭皮を整えることは、健やかな髪を育てるためにとても大切です。妊娠中はホルモンバランスの変化によって、頭皮が乾燥したり、かゆみを感じたりすることもあります。

シャンプー中に、指の腹で頭皮をやさしくマッサージすることで、血行が促され、気分もリラックスしやすくなります。ゴシゴシと力を入れず、円を描くようにゆっくり動かすのがポイントです。乾燥が気になるときは、洗い流さないトリートメントや頭皮用の保湿アイテムを取り入れてみるのもひとつの方法です。

妊娠中でも使いやすいヘアケアアイテムの選び方

妊娠中は、香りや成分に敏感になることがあります。そのため、毎日使うヘアケアアイテムは「やさしさ」にこだわって選ぶことが安心につながります。

洗浄力が強すぎないアミノ酸系のシャンプーや、ノンシリコン処方のものは、頭皮や髪への刺激を抑えてくれます。また、合成香料や合成着色料が含まれていないものを選ぶことで、肌トラブルを防ぎやすくなります。

香りは好みや体調によって感じ方が大きく変わるため、控えめで自然なものが心地よく使いやすい傾向があります。リラックス効果があるとされる柑橘系の香りなど、やさしい精油の香りをまとった製品は、日々のケア時間を穏やかなものにしてくれます。

トラブルを防ぐための髪型・スタイリングの工夫

妊娠中は体が敏感になりやすく、髪をまとめたり整えたりする作業が負担に感じることもあります。そのため、髪型もできるだけやさしいスタイルにすることがポイントです。

ポニーテールやお団子ヘアなど、強く引っ張る髪型は避けるようにしましょう。頭皮や毛根に余計な力がかかると、抜け毛や切れ毛の原因になることがあります。やわらかいヘアゴムやバレッタなど、締めつけ感の少ないアイテムを選ぶと、ストレスを感じにくくなります。また、髪を下ろしたまま過ごす場合も、寝るときはゆるくまとめておくと、絡まりや摩擦を防ぐことができます。

スタイリング剤を使用する際は、香りや刺激が控えめなものを選ぶと安心です。また、スタイリング剤をつけすぎると洗髪時に泡立ちにくくなったり、汚れが落ちにくくなったりすることがあります。妊娠中は体が敏感になりやすく、髪をまとめたり整えたりする動作も、思いのほか負担に感じることがあります。こうした負担を減らすためにも、必要最低限のスタイリングに留めておくのも一つの方法です。

 

妊娠中の髪の変化に関するよくある疑問

妊娠中の髪の状態は、人によって変化の仕方がさまざまです。 伸びやすくなったと感じる方もいれば、逆に違和感を覚えることもあるかもしれません。ここでは、よく寄せられる髪に関する疑問についてお答えします。

妊娠中に白髪が増える・減ることもある?

妊娠中はホルモンの変化だけでなく、ストレスや生活リズムの影響も受けやすくなります。そのため、人によっては白髪が増えることもあれば、逆に目立たなくなるケースもあります。白髪の発生には、加齢や遺伝だけでなく、血流や栄養状態なども関係しています。一時的な変化であることも多いため、過度に気にしすぎないことも大切です。

産後にホルモンバランスが整ってくると、髪の状態もまた変わってくることがあります。必要に応じて、専門の美容師や医師に相談するのも安心につながります。

伸びすぎて困ったときはどう対処する?

妊娠中に髪がよく伸びて、扱いにくさを感じることもあるかもしれません。毛先のパサつきや、結びにくさ、スタイリングのしづらさなど、気になる点が増えることもあります。体調が安定していれば、美容室で整えてもらうのも一つの方法です。ただし、においに敏感になっている時期は、施術前に香りの強さや使う薬剤を確認してもらうと安心です。

自宅で対処する場合は、毛先を中心にヘアオイルやトリートメントをなじませると、まとまりがよくなります。また、ゆるめのまとめ髪にすることで、快適に過ごしやすくなる工夫もできます。無理せず、自分の心地よさを優先しながらケア方法を選ぶようにしましょう。

 

まとめ

妊娠中に髪が伸びやすくなるのは、体が大きく変化している証でもあります。いつもと少し違う髪の状態に戸惑うことがあっても、それはとても自然なことです。伸びる・伸びないにかかわらず、小さな変化にも気づいてあげられていること自体が、すでに自分へのやさしさにつながっています。そんな気づかいは、やがて心と体の穏やかさにもつながっていくもの。その日の体調や気分に合わせて過ごし方を変えてもかまいません。

髪の状態も含めて、「今」の自分をそのまま受けとめる時間を持つことが、やがて安心につながっていくはずです。m.i(ミィ)は、そんな“しょいこみ期”にそっと寄り添いながら、日々変わりゆくこころとからだをやさしく支える存在でありたいと願っています。