Vol.02

女性に生まれたからこそ、
自分のからだの声を聞いて内面から美しく

  • 2024.4.15
  • m.i journal vol.02
  • インタビュー

八田 真理子さん聖順会
ジュノ・ヴェスタ・クリニック 八田
理事長・院長

1965年7月生まれ。千葉県松戸市出身。産婦人科医。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、順天堂大学、千葉大学、松戸市立病院産婦人科勤務を経て、1998年実父が開院した「八田産婦人科」を継承し、地域に密着したクリニック「ジュノ・ヴェスタクリニック八田」として開院。思春期から老年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行っている。1日80人以上の患者さんを診察し、女性のヘルスケアに関する相談会やセミナーなどを通じて、性教育・不妊・更年期などの正しい知識の啓蒙にも積極的に取り組んでいる。著書に『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)、『思春期女子のからだと心 Q&A』(労働教育センター)など。

グラデーションライフの中で「しょいこみ」と向き合いながら

今がベスト!後悔のない生き方を

八田先生ご自身の「しょいこみ」の体験と、
どう乗り越えたかについてお聞かせいただけますか。

私は医師になってから、仕事優先の生活をしてきました。その頑張り過ぎがたたったのでしょうね。女性の厄年である32歳のときに急性胃腸炎になり、初めて1週間ほど仕事を休みました。腹痛と吐き気がどんどんひどくなって我慢していると、下痢が血便になってきて、血を吐いて…。それで救急搬送となり、自分の勤務していた病院に入院したのですが、同僚の産婦人科の先生たちの冷ややかな対応が、「自分の存在とキャリアっていったい何なんだろう」と考え直すきっかけになりました。そのとき自分の味方はいないことに気がつき、当時から強く抱いていた「患者さんのためにできることを実現する」ために退職しました。その後、今の夫と事実婚し、父が開院したこのクリニックを継承しました。私は情熱を持って男性医師と同じように仕事をしたいと思っていたので、子どもを持たない選択に夫も賛成してくれたのです。

実は、30歳ごろから生理痛が重くなってきて、子宮筋腫・子宮内膜症を発症しました。ずっと生理痛と闘ってきたというか、ずっとお付き合いしてきたわけです。今でこそ生理を自分でコントロールできる時代になりましたが、私がまだ20代や30代のときは、毎月生理があるのは当たり前で、ずっと生理に振り回されて過ごしてきました。毎月の生理に長い手術や当直が当たると、たくさんの大きなナプキンを持ち歩き、痛み止めも手放せませんでした。*1月経前症候群(PMS)もとても強く、生理前はいつも不調でしたね。なんでこんなにイライラするのかがわからなくて、口調がきつくなって患者さんを泣かせてしまったことが何度もありました。それがPMSだったことを後で知ったのですけれど。

30代の後半になって、保険適用のピルを初めて飲んでみたところ、驚くほど楽になったのです。40代後半まで飲んでいたのですが、血栓症を疑う症状が出て中止とし、子宮の中に入れる*2ミレーナに切り替えました。キャリアを積んでいくのと同時に月経トラブルもちょうど重なって、自分が女性であることが不利で損している上、嫌だと感じたことが何度もありました。なんで女性に生まれてきたかなぁ…って悔しく思ったこともありました。もしかしたらいまも私と同じように思っている方がいるのではないでしょうか。だから、思春期に女性性を嫌う女の子の気持ちもよく理解できるんです。

  1. *1月経前症候群(PMS): Premenstrual Syndromeの略。比較的新しい概念。月経の3日~7日前くらいに起こり、月経開始とともに消失する女性のこころとからだの不調。手足のむくみや胸・下腹部の張り、頭痛、気分の落ち込みなど多様な症状がある。プロゲステロン(黄体ホルモン)の影響、脳の視床下部や自律神経の影響、セロトニン・GABA(γ-アミノ酪酸)の低下が原因だといわれている。
  2. *2ミレーナ:黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する子宮内避妊具。過多月経・月経困難症の治療薬としても活用され、不快な更年期障害の症状緩和にも効果がある。

女性ならではのしょいこみを抱えながらお仕事に専念されていたのですね。
現在はいかがですか?

54歳で生理が止まり、更年期のときにはホットフラッシュもあったので、そこからホルモン補充療法を始めました。今、人生最高にご機嫌です!毎日体調が良くて、どこに行くにもナプキンはいらないし、出血はないし、お腹も痛くないし。すごく楽です!更年期は人生100年時代の折り返し地点で、再スタートができる時期。生理に振り回されない閉経後こそ、さまざまなことにチャレンジできるのではと、いろいろなところで話しています。

女性には生理のことや妊娠・出産のこと、キャリアのことなど、男性とは違った「しょいこみ」があり、それとどのように向き合っていくかですね。人生は複数の選択肢がありますが、後悔のないようにしていくことが大事です。私は今のところ、自分の歩んできた中に後悔はありません。今がベストだと思って生きています。

女性である自分を愛おしんでほしい

しょいこみを抱えた女性たちと接する中で、
産婦人科医としてこころがけていらっしゃることをお聞かせください。

女性は子どもを産める性です。産む・産まないはもちろん自由ですが、妊娠できる期間は限られているということを伝えたいですね。ですから、私はいつも患者さんの疾患だけでなく、生活環境もみています。たとえば、月経困難症でピルを飲んでいる人には3カ月に1度受診されるたびに、「彼はできた?」「彼とはうまくいってる?」などと口をはさんで、おせっかいおばさんになっているんです。

また、診察室に入ってくる際の患者さんの姿勢にも注目しています。最近は特に、背中が丸くなって姿勢の悪い方が多いのです。「スマホばかり見てストレートネックになっていると、肩は凝るし、目も悪くなるし、気分も落ち込むよ」と言葉を掛けます。顔色や声のトーンにも留意しています。自分に自信がなくうつむき加減だと、どんどん元気がなくなりさらに運気も下がると思うのです。そこで私はいつも患者さんのどこか良いところを見つけて必ず褒めるようにしています。「顔色がいいね」「髪の毛かわいいね!」「そのスカート素敵!」など、瞬時に感じたことをお世辞ではなく言葉に出しています。できれば、気持ちよく、元気になって帰っていただきたいですもの。私の言葉掛けで、少しでも変わっていただけたらいいなと思っています。

恋愛や家庭環境も体調の変化に影響しますので、「最近何かあった?」「困っていることはない?」と、診療以外のことも聴くことがあります。だから、つい話が長くなってしまうんですね(笑)。便秘が普通だと思って長年下剤を飲んでいた人が、検査でポリープが見つかり、初期の大腸がんだったなんてこともありました。便秘だと、気分も落ち込んでうつっぽくなる人もいますので、排便の状態はとても大切です。

性交痛でパートナーとうまくいかなくなったという女性も最近多いですね。私のような女性医師にでさえなかなか言いづらいことですが、今後、ゼリーや腟錠、レーザー治療やホルモン補充療法などの*3フェムケア・フェムテックもさらに広がっていくものと考えています。

  1. *3フェムケア:「Feminine(女性)」と「Care(ケア)」をかけ合わせた造語。月経や妊娠、更年期など女性が抱えるからだとこころの悩みに寄り添い、女性の健康をサポートする製品やサービス。フェムゾーン(膣と外陰)ケア商品やオーガニックナプキン、ショーツなど。
  2. フェムテック:「Female(女性)」と「Technology(技術)」をかけ合わせた造語。女性の心身のケアのためにデジタルテクノロジーを駆使して作られたサービスのこと。女性特有の課題を月経管理アプリやAIなどのテクノロジーを使って解決するもの。

中学校で性教育授業をされていますね。
どんなことをお伝えしていますか?

「からだを守るのは自分だよ」と、ラストメッセージとしていつも子どもたちに伝えています。性感染症や生理のこと、避妊、デートDV、LGBTQなどについても話します。何よりも、自分のからだは自分にしか守れない、親でもパートナーでもなく、自分だけなんだということです。正しい知識を持ち、自己肯定感を上げて、自分を愛おしむことを伝えています。

しょいこむ女性のこころとからだに寄り添うために

女性であることに誇りをもち、自分に合うかかりつけ医を

女性が婦人科での受診をもっと身近に感じてもらうことが大切だと思います。
どのようにすればもっと気軽に受診できるでしょうか。

女性医師や女性クリニックも増えているのに、まだまだ産婦人科自体の敷居が高いと思います。専門性が高く、分野が広い産婦人科ですが、まずは私たち産婦人科医が女性ヘルスケアの知識を深めていかないといけないと思います。

一方、患者さんも、意識の向上が大切です。たとえば、女性医学学会専門医などをホームページで調べると、女性のヘルスケアやホルモン治療などに精通している先生やクリニックが紹介されています。医師との相性もあるので、ぜひ、自分に合う医師を見つけてほしいですね。地方の方だとクリニックが少ないかもしれません。いまはオンライン診療も受けられる時代になっていますので活用していただきたいですね。当たり前のことですが、患者さんには医師を選ぶ権利も選択肢もあります。そのため、ご自身のかかりつけ医を持ってほしいのです。

どのようなタイミングで受診すればよいでしょうか?

年に1度は、かかりつけ医の診察を受けていただきたいですね。できれば、定期健康診断や自治体の検診の結果を持っていってほしいです。何でも相談ができるかかりつけ医は婦人科がベストだとは思いますが、内科の先生でもいいと思いますよ。自分のからだのことを一番理解してくれている医師を一人は持ちましょう。

私は、会社の健診結果を持って、月経トラブルや更年期症状で定期的に受診する患者さんには、子宮がん検査の結果が問題なくても、「ホルモン検査をしましょう」「エコーを診ていないようなので、子宮と卵巣をエコー検査しましょう」と、健診で不足しているところを補うようにしています。

自分では病気とは思っていない、よくある手の痛みや頭痛、便秘などの症状は、いまや予防や治療ができる時代になってきました。我慢したり市販薬でやり過ごしている人も多いので、気になることはメモしてぜひかかりつけ医に伝えてほしいですね。

何より女性が知識を持って、リテラシーを上げることが大事です。自分のからだにもっと目を向けて、自分のからだの声を聴いてください。そして女性であることに自信と誇りを持ってほしいです。

m.i(ミィ)の活動が多くの女性に届くことを願って~内面からの輝きを

この記事を読んでいただいている女性読者の皆さんに
メッセージをいただけますか。

こころもからだも一緒にきれいに、元気になってほしいですね。女性は見た目年齢が若い人の方が血管年齢や骨年齢が若く、強いては寿命も長いというデータがあります。とくに更年期以降、その差が歴然としてきます。ただ、お化粧をしたりサプリを飲んだり美容整形できれいにするのではなく、内面的な美しさはやはりその人が生きてきた中で培ってきているのです。「年を重ねれば重ねるだけ、女性は美しくなっていく」と思います。

私は、姿勢や目の輝き、佇まいを見ると、その方がどのような生活をしてきたかが想像できます。ワクワクしていると目が輝きますね。目の輝きは生命力だと思っています。

私はいつも恋をしています。ほとんどが仕事なのですが(笑)。女性の皆さんにも恋をしてほしいですね。対象は男性でなくても、仕事や推し、ペットでもいいし、趣味に恋をして打ち込んでいるのもいいと思うのです。何かに取り組むと、すごくエネルギーが出て若々しく見えますね。70代、80代の女性でも、社交ダンスや三味線、お茶など夢中になっている人は年齢を感じなく若くて元気できれいです。いつもワクワク恋をしていただきたいなって思いますね。

女性がきれいで元気になっていけば、運命も変えていけます。「この人といると楽しいな」と、周りの人も幸せに、明るくできる人になると思いますね。私たち女性は、妊娠・出産ができる性であるがゆえに大変なこともあるけれど、閉経を過ぎればその先はそれまでの生きざまが出てきます。m.i(ミィ)が目指しているように、しょいこみ期もひっくるめて自分らしく輝いていてほしいですね。