Vol.19

かゆみが止まらない妊婦さんへ|肌にやさしい対策とNG習慣まとめ【医師監修】

  • 2025.9.5
  • m.i journal vol.19
  • コラム

馬場 敦志さん産婦人科専門医

札幌南高等学校を卒業後、筑波大学医学専門学群医学類を修了。卒業後は勤医協中央病院での初期研修を経て、札幌医科大学 産科婦人科学講座へ入局。その後、留萌市立病院、小樽協会病院、市立函館病院、市立釧路総合病院、NTT東日本札幌病院など、道内の主要医療機関で産婦人科診療に従事。幅広い地域医療の現場で経験を積み、確かな臨床力と丁寧な診療で信頼を集める。現在は、札幌市の「宮の沢スマイルレディースクリニック」院長として、地域に根ざした産婦人科医療を提供。
所属学会:日本産科婦人科学会/日本内視鏡外科学会/日本産科婦人科内視鏡学会

妊娠してから肌のかゆみがひどくなり、毎日がちょっと憂うつ…。そんな思いを抱えていませんか?

特に夜のかゆみで眠れない日が続くと、心も体も疲れてしまいますよね。

本記事では、妊娠中にかゆみが起きる理由や、肌への負担を減らすケアの方法、避けたほうがいい習慣までわかりやすく解説します。

読み終えたころには、無理なくできるかゆみ対策が見つかり、毎日の過ごし方に少しゆとりが生まれるはずです。

妊娠中に起こる肌のかゆみとは

妊娠中は肌がかゆくなりやすく、多くの人が悩みを感じています。これはホルモンバランスの変化や皮膚の伸び、乾燥などが複雑に重なって起こるものです。

特にお腹や胸、太ももといった皮膚が引っ張られる部分にかゆみが出やすくなります。症状は個人差があり、軽い違和感から眠れないほどの強いかゆみまでさまざまです。原因を知り、早めに対策をとることが肌トラブルを防ぐ第一歩となります。

かゆみの感じ方と混在しやすい症状(乾燥・ピリピリ感など)

かゆみと一口に言っても、実際にはさまざまな不快感が混じっている場合があります。乾燥による粉ふき、チクチクした刺激、ヒリヒリとした熱感などが一緒に起きることも少なくありません。これらの症状は、肌のバリア機能が低下しているサインです。特定の部分だけがむずがゆいときもあれば、全体的に違和感が広がることもあります。しっかりと保湿ケアを行えば、こうした症状の軽減につながります。

かゆみが出やすい部位(お腹・胸・太ももなど)

妊娠中にかゆみが出やすいのは、皮膚が急に引っ張られる部位です。

例えば、お腹が大きくなるにつれて皮膚も伸びるため、乾燥しやすくなりかゆみを感じやすくなります。同様に、胸や太もも、二の腕、腰まわりなどもかゆくなりがちな箇所です。これらの部分は服でこすれやすいので、刺激が加わると症状が悪化することもあります。ゆったりした服を選び、摩擦を減らすことが大切です。

妊婦特有の夜間のかゆみとその影響

夜になるとかゆみが強くなる…そんな経験をする妊婦さんも少なくありません。これは日中よりも体が温まり、血行がよくなる夜にかゆみが出やすいためです。また、寝ているときは意識が薄く、無意識にかいてしまうので悪化しやすくなります。眠れない日が続くと、体力や気力の低下にもつながるため注意が必要です。就寝前の保湿や、室温・湿度の調整などで快適な睡眠環境を整えることが対策になります。

妊娠中の肌かゆみの主な原因

妊娠中の肌トラブルにはさまざまな原因がありますが、かゆみはホルモンや体の変化と深く関係しています。皮膚のバリア機能が弱まり、乾燥や刺激を受けやすくなるのでかゆみが生じます。また、免疫の影響や遺伝的な体質も関係しているため、誰にでも起こりうるものです。原因を理解しておけば、適切なケアや対処法を選びやすくなります。

ホルモンバランスの変化による影響

妊娠中は女性ホルモンが急激に増えるため、肌の状態が変化しやすくなります。特にエストロゲンやプロゲステロンの増加は、皮脂の分泌を不安定にしたり、肌の感受性を高めます。この影響で、ちょっとした刺激にも反応しやすくなり、かゆみが出たりします。もともと肌が敏感な人ほど、変化を強く感じやすい傾向があります。

皮膚の伸びやバリア機能の低下

お腹や胸が大きくなるにつれて、皮膚が伸び、表面が薄くなっていきます。こうした変化は、肌のバリア機能を弱め、外からの刺激を受けやすくする原因になるんです。バリア機能が低下すると、水分が蒸発しやすくなり、乾燥やかゆみが悪化しやすくなります。特にお腹や太ももは皮膚が引っ張られる部分なので、保湿ケアを丁寧に行うことが大切です。

自己免疫の反応(PUPPPなど)

妊娠中に見られる皮膚のかゆみには、自己免疫の反応が関係する場合もあります。代表的なのが「PUPPP(妊娠性痒疹)」と呼ばれる症状です。これは主に妊娠後期に現れ、赤い発疹や強いかゆみを伴うのが特徴です。症状が広がることもあり、我慢できない場合は皮膚科や産婦人科での診察が必要になります。早めに相談すれば、悪化を防げます。

肌の乾燥や水分不足

妊娠中は体内の水分バランスが変わりやすく、肌のうるおいが不足しがちです。また、代謝が活発になれば、汗や皮脂が増える一方で、保湿力は低下することがあります。こうした状態が続くと、肌が乾燥してかゆみが出やすくなります。入浴後や朝晩に保湿クリームを塗るなど、こまめなケアがかゆみ対策には有効です。

体質・遺伝的傾向

もともと肌が乾燥しやすい体質の人や、アトピー性皮膚炎などの家族歴がある場合、妊娠中のかゆみが出やすい傾向があります。また、肌が薄い・敏感といった特徴を持つ人も影響を受けやすいです。自分の肌質を知っておくと、刺激の少ないスキンケアや生活習慣を取り入れるヒントになります。日ごろからの予防的なケアも役立ちます。

妊娠中の肌かゆみをやわらげる対策方法

妊娠中のかゆみは、毎日のちょっとした工夫で軽くなることがあります。スキンケアや服の選び方、水分や栄養のとり方を見直せば、肌の状態が整いかゆみの緩和につながります。無理のない範囲でできる対策を取り入れるのが、妊娠期を快適に過ごすコツです。

保湿力のあるスキンケアを継続する

肌の乾燥はかゆみの大きな原因になるため、しっかりと保湿することが大切です。妊娠中は肌のバリア機能が弱まりやすく、うるおいが逃げやすくなります。保湿力の高いクリームや乳液を使い、朝晩のスキンケアを習慣にしましょう。

特に入浴後は肌が乾きやすいため、時間をあけずに保湿するのがおすすめです。肌に刺激の少ない処方を選ぶと、より快適に使えます。

締めつけの少ない通気性のよい服を着る

服の素材や着心地も、肌のかゆみに大きく影響します。きつく締めつける服や汗がこもる素材は、肌に刺激を与えやすくかゆみの原因になります。妊娠中は体が敏感になっているため、ゆったりとしたシルエットで、肌ざわりの良いコットン素材などを選ぶと安心です。締めつけが少ないと血流もよくなり、皮膚のコンディションが整いやすくなります。

こまめな水分補給を意識する

体の内側からもうるおいを保つために、水分補給は欠かせません。妊娠中は血液量が増えることもあり、いつも以上に水分を失いやすい状態です。喉が渇いてから飲むのではなく、1日を通してこまめに水や白湯を飲むことを意識しましょう。冷たい飲み物を避け、常温の水を少しずつ摂るのがポイントです。肌の乾燥予防にもつながります。

栄養バランスのとれた食事を心がける

肌の調子は食事からも大きな影響を受けます。ビタミンA・C・E、亜鉛などは肌の修復や保湿に役立つ栄養素です。妊娠中は食事制限もありますが、できるだけ多くの食材をバランスよくとるように意識しましょう。野菜や果物、豆類、魚などを日常的に取り入れると、肌トラブルの予防につながります。食生活の見直しが、肌にも心にもやさしく働きます。

かゆみが強いときは医師に相談する

かゆみが続いたり、日常生活に支障が出るほど強くなったりした場合は、医師の診察を受けることが必要です。市販のクリームでは対処できない場合もあり、原因によっては専門的なケアが求められます。妊婦特有の皮膚症状であるPUPPPなどの可能性もあるため、無理に我慢せず、早めの相談が安心につながります。健診時に相談しても問題ありません。

肌かゆみを悪化させるNG習慣とは

かゆみがつらいときこそ、日常の行動が症状を左右します。無意識のうちに続けている習慣が、肌トラブルを長引かせる原因になることもあります。悪化を防ぐためには、かゆみを軽く見るのではなく、適切に対処するのが大切です。

乾燥やかゆみを我慢して放置する

かゆくても我慢すれば治まると思って、そのまま放置するのは逆効果です。乾燥した肌を放っておくと、さらにバリア機能が低下し、かゆみが悪化する可能性があります。無意識にかきむしれば、肌が傷つき炎症が広がることもあります。

特に夜間は無意識にかいてしまいやすく、翌朝赤みやかさつきに気づくことも……保湿を習慣にし、早めのケアを心がけましょう。

体を締め付ける衣類を着続ける

妊娠中でもスタイルを意識して、ぴったりした服を着たくなる気持ちは自然なことです。しかし、きつい服は皮膚を圧迫し、血行を妨げたり汗がこもったりするので、かゆみを引き起こしやすくなります。ゴムの跡が残るような下着やインナーは注意が必要です。肌が敏感になりやすい時期だからこそ、締めつけの少ないゆったりした服装への切り替えが肌を守るポイントです。

強すぎる成分のスキンケアを使う

刺激の強いスキンケア用品は、妊娠中の肌には合わない場合があります。美白成分やピーリング系のアイテムは、一見肌によさそうに見えても、肌のバリアを壊してかゆみを助長する原因になることもあります。

特にアルコールや合成香料、着色料を多く含む製品は注意が必要です。成分表示をチェックし、肌にやさしい処方のものを選ぶのが、肌トラブルを防ぐうえで大切です。

こんな症状が出たら医師に相談を

妊娠中の肌のかゆみはよくある変化ですが、症状によっては注意が必要です。強いかゆみや広がる湿疹、発熱などの異常がある場合は、自己判断せず医師に相談しましょう。早めの受診が、母体と赤ちゃんの健康を守るための第一歩になります。

我慢できないほどの強いかゆみが続く

日常生活に支障をきたすほどのかゆみが続く場合、ただの乾燥ではない可能性があります。妊娠中に起こる「PUPPP(妊娠性痒疹)」などの皮膚疾患は、強いかゆみが特徴で、放置すると悪化することもあります。我慢していると寝不足やストレスにもつながり、心身に負担をかけてしまいます。かゆみが数日以上続く場合には、かかりつけの産科医・皮膚科医に相談するといいでしょう。

赤みや湿疹、発疹が広がっている

かゆみとともに赤みや湿疹が出てきた場合は、皮膚の炎症が進んでいるサインです。

特に発疹が広がっていくときは、アレルギーや皮膚疾患の可能性も考えられます。お腹まわりや胸、手足などに赤いブツブツが現れ、それが日ごとに増える場合は早めの対処が必要です。スキンケアでおさまらないと感じたら、早めに受診して適切な治療を受けましょう。

発熱・吐き気など他の症状が伴う

かゆみに加えて発熱や吐き気、体のだるさなどがあるときは、単なる肌トラブルではないかもしれません。感染症や肝機能の異常など、妊娠中に特有の病気が隠れている可能性もあります。肌以外の不調が重なる場合は、なるべく早く医療機関を受診しましょう。自己判断で放置せず、かかりつけの産婦人科に相談するのが安心です。

妊娠中の肌ケアは“やさしさ”がいちばん大切

妊娠中の肌は普段よりも敏感になり、わずかな刺激でもかゆみを感じやすくなります。だからこそ、肌ケアでは“やさしさ”が最優先です。成分や使い心地、香りまで配慮されたアイテムを選べば、かゆみの予防だけでなく、気分も落ち着きやすくなります。無理なく続けられるケアこそ、妊娠期の肌に必要なサポートです。

妊娠中の肌にも配慮されたやさしい処方

妊娠中はホルモンの影響で肌が過敏になり、普段は平気な成分でも反応してしまう場合があります。そのため、スキンケアは刺激の少ない処方を選ぶのが重要です。例えば、以下のような特徴を持つアイテムが適しています。

  • 無香料・無着色
  • アルコールフリー
  • パラベン不使用
  • アレルギーテスト済み

 

これらの条件を満たした商品は、肌にやさしく、毎日のケアに取り入れやすいものが多いです。肌トラブルを防ぐには、配合成分を確認する習慣をつけるのも大切です。

保湿しながら肌をこすらず洗える泡タイプ

洗顔やボディソープは、やさしく洗える泡タイプがおすすめです。泡タイプは肌との摩擦が少なく、こすらなくても汚れを包み込んで落とすことができます。肌にかゆみがあるときや、乾燥しやすい部分にも負担がかかりにくく、洗い上がりもつっぱりにくいのが特徴です。また、洗浄成分が強すぎないタイプを選べば、うるおいを残しながら清潔に保つことができます。洗うだけでなく、肌をいたわることを意識したケアがポイントです。

強すぎない香りで気分がやすらぐ設計

妊娠中はにおいに敏感になることが多く、普段好きだった香りでも不快に感じる場合があります。そのため、香りの強すぎないスキンケア商品を選ぶと、毎日のケアがストレスになりにくいです。天然由来の精油をほのかに使ったものや、無香料タイプも人気です。やさしい香りはリラックス効果も期待できるため、肌だけでなく心のケアにもつながります。使うたびに気持ちがほっとするようなケアアイテムを選ぶのがおすすめです。

まとめ

止まらないかゆみは、気づかないうちに心まですり減らしてしまうもの。
それでも、あなたが今日もケアを続けていることは、確かに自分と赤ちゃんを思う行動です。

「どうせ治らない」とあきらめる前に、肌にやさしい習慣を少しずつ取り入れてみませんか。
完璧じゃなくていいんです。自分に合う方法を見つけて、できることから整えていく。

m.i(ミィ)は、そんな日々の小さな選択をそっと支える存在でありたいと思っています。
“かゆみのない日”が、少しずつ増えていきますように。あなたらしく、やさしく、過ごせますように。