妊娠中、乳首のかゆみが気になるときに|原因とやさしいケア方法【医師監修】
- 2026.6.8
- m.i journal vol.56
- コラム

西野 枝里菜さん産婦人科専門医
東京大学理学部生物学科を卒業後、同大学薬学部薬科学専攻修士課程を修了。名古屋大学医学部医学科を卒業し、JCHO東京新宿メディカルセンターで初期研修を行う。その後、都立大塚病院で産婦人科後期研修を修了し、久保田産婦人科病院に勤務。基礎科学から臨床医学に至る幅広い学びと経験を活かし、産婦人科医として女性の健康を支えている。
資格:産婦人科専門医/母体保護法指定医/日本医師会認定産業医

妊娠中、ふとした瞬間に胸のあたりがかゆくなり、戸惑ってしまうことはありませんか?「こんなところがかゆくなるなんて」と驚かれるかもしれませんが、実は多くの妊婦さんが経験する変化のひとつです。それは、お腹の赤ちゃんを迎えるために体が一生懸命準備をしている証拠でもあります。この記事では、かゆみの原因を知り、今日からご自宅でできるやさしいケア方法をご紹介します。少しでも不快感が和らぎ、穏やかな気持ちで過ごせますように。
妊娠中に乳首がかゆくなる主な原因

乳首のかゆみにはいくつかの原因が重なっていることが多く、それらを知るだけでも気持ちが楽になることがあります。まずは体の中でどんな変化が起きているのか、一緒に確認してみましょう。
ホルモンの影響で乳腺が発達する
妊娠すると、プロゲステロンやエストロゲンといった女性ホルモンの分泌が急激に増えます。これは、産後の授乳に向けて乳腺を発達させるための大切なプロセスです。乳腺が発達することでバスト全体のサイズが大きくなり、内側から皮膚が引き伸ばされるような状態になります。この皮膚の急な伸展が刺激となり、チリチリとしたかゆみを感じさせる原因になることがあります。
肌が敏感になり刺激を受ける
ホルモンバランスの変化は、肌のバリア機能にも影響を与えます。妊娠前は何ともなかった下着の繊維や、わずかな擦れなどが、妊娠中には強い刺激として感じられることも少なくありません。肌が本来持っている「守る力」が一時的に不安定になることで、外部からの些細な刺激にも過敏に反応し、かゆみというサインを出してしまうのです。
妊娠中は肌の水分量が変化する
お母さんの体内の水分は、羊水や赤ちゃんの成長のために優先的に使われます。そのため、意識して水分を摂っていても、母体の肌は水分不足になりがちです。特に乳首のように皮膚が薄い部分は乾燥の影響を受けやすく、カサカサとした状態になりやすいでしょう。乾燥した皮膚はさらに刺激に弱くなるため、かゆみを引き起こす大きな要因となります。
サイズが合わない下着が刺激になる
妊娠前に愛用していたブラジャーをそのまま使い続けていませんか?バストの容量が増えているのにカップが小さいままだと、乳首が下着に強く押し付けられ、常に摩擦が起きている状態になります。また、アンダーバストの締め付けが血行を悪くし、肌の代謝を妨げている可能性もあります。窮屈さを感じたら、それは下着を見直すサインかもしれません。
かゆみが出やすい時期と変化

かゆみを感じる時期や強さは、妊娠の進み具合によっても変わってきます。いつごろから意識しておくといいか、目安として知っておきましょう。
妊娠初期から中期にかけて
個人差はありますが、つわりが落ち着き始める妊娠中期ごろから、バストのサイズアップに伴ってかゆみを感じ始める方が多いようです。お腹が大きくなるのと同じように、胸もまた、赤ちゃんを育てるための準備を急速に進めています。体が大きく変化しようとするこの時期は、皮膚にとっても負担がかかりやすいタイミングだといえるでしょう。
授乳の準備で乳首の皮膚が変わる
妊娠が進むにつれて、乳首や乳輪の色が濃くなったり、大きくなったりする変化に気づくかもしれません。これはメラニン色素が増えることによる正常な変化ですが、同時に皮膚のターンオーバーも活発になります。薄皮がむけるような状態になることもあり、その過程で乾燥やかゆみが生じやすくなるのです。こうした変化も、赤ちゃんが乳首を見つけやすくするための自然な仕組みだといわれています。
かゆみを和らげるために気をつけたいこと

かゆみを感じたとき、つい無意識にやってしまいがちな行動が、症状をさらにつらくさせてしまうことがあります。日常の中で意識しておきたいポイントを、一緒に確認しておきましょう。
かきむしらないようにする
かゆいとつい手がいってしまいますが、爪を立ててかいてしまうと皮膚に細かな傷がつき、そこからさらに刺激が入ってかゆみが増す「悪循環」に陥ってしまいます。どうしてもかゆみが辛いときは、清潔なタオルで包んだ保冷剤を当てて冷やすと、感覚が麻痺して落ち着くことがあります。決して強くこすらず、やさしく鎮めることを意識してくださいね。
熱いお湯や強い刺激は避ける
熱いお湯につかることはリラックスにつながりますが、肌に必要な皮脂まで溶かし出してしまい、乾燥を加速させる原因になります。入浴時はぬるめのお湯を心がけ、体を洗う際もナイロンタオルなどでゴシゴシこするのは避けましょう。たっぷりの泡を立てて、手のひらで包み込むようにやさしく洗うだけでも、汚れは十分に落とせます。
日常でできるやさしいケアの基本

特別なことをしなくても、毎日のちょっとした習慣を見直すだけでかゆみが和らぐことがあります。ここでは、今日から取り入れやすいケアのコツをご紹介します。
低刺激の保湿剤でケアする
乾燥を防ぐためには、入浴後すぐの保湿がとても大切です。バスト周りや乳首には、刺激の少ない保湿クリームやオイルをやさしく塗り広げましょう。馬油(バーユ)や純度の高いワセリン、または乳頭専用のケアクリームなど、万が一口に入っても安全な成分のものを選んでおくと、産後の授乳期にもそのまま使えて便利です。
通気性のよい素材を選ぶ
直接肌に触れるインナーやパジャマは、素材選びにもこだわりたいところです。化学繊維よりも、綿(コットン)やシルクといった天然素材のほうが、吸湿性や通気性に優れています。汗をかいてもすぐに吸収・発散してくれるため、蒸れによるかゆみを防ぐ助けになるでしょう。肌触りが柔らかいものを選ぶだけで、ストレスが軽減されることもあります。
下着選びと洗濯の工夫

毎日身につける下着や洗濯のしかたも、乳首のかゆみに影響していることがあります。少しの工夫で肌への負担を減らすことができますので、ぜひ参考にしてみてください。
マタニティブラでやさしくサポートする
妊娠中のバスト変化に対応できるよう設計された「マタニティブラ」を取り入れてみましょう。ワイヤーが入っていないものや、縫い目が肌に当たらないよう工夫されたものなど、肌へのやさしさを考えた商品がたくさんあります。サイズ調整が細かくできるものを選べば、日々変化する体にも無理なくフィットし、摩擦による不快感を減らすことができます。
洗剤や柔軟剤を見直す
毎日使っている洗濯洗剤や柔軟剤が、敏感になった肌には刺激となっている場合もあります。もし衣類が触れるとかゆみを感じるようであれば、一時的に低刺激の洗剤や、赤ちゃん用の無添加洗剤に変えてみるのもひとつの方法です。また、洗剤成分が繊維に残らないよう、すすぎの回数を増やすなどの工夫も、肌トラブルの予防につながります。
体からのサインを見逃さないで

日々のケアを続けていても改善しない場合は、体が何かを伝えようとしているサインかもしれません。どんな症状に気をつければよいか、あらかじめ知っておくと安心です。
強いかゆみや痛みが続く場合
保湿やケアをしてもかゆみが治まらない、あるいは夜も眠れないほど強いかゆみがある場合は、単なる乾燥ではなく、「妊娠性痒疹(にんしんせいようしん)」などの皮膚トラブルが起きている可能性もあります。また、かきすぎて汁が出る、赤くただれているといった症状が見られるときも、自己判断せずに専門家の判断を仰ぐことが大切です。
「乳首がかゆいくらいで病院に行ってもいいのかな」と遠慮してしまう方もいるかもしれませんが、心配はいりません。妊婦健診の際に助産師さんや医師に相談してみましょう。
症状に合わせて、妊婦さんでも使える塗り薬を処方してもらえることもあります。小さな不安をひとつずつ解消していくことが、心の安定にもつながります。
まとめ

乳首のかゆみは、体が赤ちゃんを育てるための準備を順調に進めている証拠であり、決して珍しいことではありません。ホルモンバランスが整い、産後しばらくすれば自然と落ち着いていくことがほとんどです。「私のケアが足りないのかな」と自分を責める必要はありません。今は変化していく自分の体を、やさしく労ってあげてくださいね。
m.i(ミィ)は、日々変化する体と向き合うあなたの心に、そっと寄り添いたいと考えています。かゆみ対策も、できることから少しずつ、自分のペースで試してみてください。完璧を求めなくても大丈夫です。あなたが穏やかな気持ちで、毎日を少しでも心地よく穏やかに過ごせるよう、心から願っています。

