Vol.55

妊娠中のイライラが止まらない原因とは?心と体をいたわる対処法を解説【医師監修】

  • 2026.6.6
  • m.i journal vol.55
  • コラム

西野 枝里菜さん産婦人科専門医

東京大学理学部生物学科を卒業後、同大学薬学部薬科学専攻修士課程を修了。名古屋大学医学部医学科を卒業し、JCHO東京新宿メディカルセンターで初期研修を行う。その後、都立大塚病院で産婦人科後期研修を修了し、久保田産婦人科病院に勤務。基礎科学から臨床医学に至る幅広い学びと経験を活かし、産婦人科医として女性の健康を支えている。
資格:産婦人科専門医/母体保護法指定医/日本医師会認定産業医

「些細なことでパートナーに当たってしまう」「なんだかずっとイライラする」。そんな自分に戸惑い、自己嫌悪を感じてはいませんか? 妊娠中のイライラは、ママの体が赤ちゃんを守ろうとして起きる自然な変化です。この記事では、イライラの原因と少しでも心を軽くするためのヒントをご紹介します。まずは、がんばっているご自身をたくさん褒めてあげてくださいね。

妊娠中にイライラが増えるのはなぜ?

「なぜこんなにイライラするのだろう」と、不思議に思ったことはありませんか?妊娠中のイライラには、体の仕組みからくるしっかりとした理由があります。自分を責める前に、まずその原因を知ることが大切な一歩になるでしょう。

ホルモンバランスの大きな変化が影響

妊娠すると、女性の体内ではプロゲステロン(黄体ホルモン)やエストロゲン(卵胞ホルモン)といった女性ホルモンの分泌量が急激に増加します。これらのホルモンは赤ちゃんを育てるために欠かせないものですが、同時に自律神経のバランスにも影響を与えることがあります。今までなら気にならなかったような小さな出来事に対しても、感情のコントロールが難しくなり、イライラや不安を感じやすくなるのはこのためです。これはあなたの性格が変わったわけではなく、体が劇的な変化に対応しようと頑張っている証拠なのです。

体調不良や睡眠不足が影響

妊娠中はつわりによる吐き気や、お腹が大きくなることによる圧迫感など、常に何らかの不調を抱えている状態が続きます。思うように体が動かせないストレスや、頻尿や腰痛などで熟睡できない日が続くことも、心の余裕を奪う大きな要因となるでしょう。十分に休息が取れていない状態では、誰でも感情的になりやすいものです。まずは「今は体調が万全ではないから仕方がない」と割り切り、自分へのハードルを少し下げてあげることも大切になります。

イライラを感じやすい時期とは

妊娠中のイライラは、時期によってその原因や状況が少しずつ異なります。自分が今どのタイミングにいるかを知ることで、「これは今の時期に多い感情なんだ」と、気持ちを客観的に見つめるきっかけになるかもしれません。

つわりがつらい妊娠初期

妊娠初期は、見た目では変化がわかりにくいものの、体内では激しい変化が起きています。特につわりの時期は、終わりの見えない吐き気や倦怠感に襲われ、精神的にも追い詰められやすいタイミングです。「いつまで続くのだろう」という不安や、思うように食事がとれない焦りがイライラにつながることも少なくありません。この時期は無理をせず、家事や仕事を最低限にして体を休めることを最優先にしましょう。

身体が重くなる妊娠後期

お腹が大きくなる妊娠後期は、胃の圧迫感や動悸、息切れなどが起こりやすくなります。また、出産への恐怖や、産後の生活に対する不安が具体的になり始める時期でもあります。「お産の準備は間に合うかな」「赤ちゃんは元気かな」といった心配事が積み重なり、心が不安定になるケースも珍しくありません。身体の自由が利かなくなるもどかしさも加わり、ちょっとしたことで感情が爆発してしまうこともあるかもしれません。

イライラが強くなる場面や状況

妊娠中は、日常のさまざまな場面でイライラが刺激されやすくなります。「どうしてこんなに敏感になってしまったんだろう」と感じても、それはごく自然なことです。どんな状況でイライラしやすいかを知っておくと、少しだけ心の準備ができるでしょう。

周囲の何気ない言葉に敏感になる

妊娠中は感覚が研ぎ澄まされ、普段なら受け流せるような言葉にも敏感に反応してしまうことがあります。例えば、パートナーの「疲れた」という一言や、親戚からの悪気のないアドバイスが、心に深く突き刺さることもあるでしょう。相手に悪意がないことは頭ではわかっていても、感情が追いつかない場面があるかもしれません。そんなときは、無理に笑顔で返そうとせず、少し距離を置いて深呼吸する時間をつくるのもひとつの方法です。

些細なことが気になりやすくなる

部屋の散らかり具合や、パートナーの生活習慣など、これまで気にならなかった小さなことが目について仕方がない、という経験はありませんか? これは「巣作り本能」とも呼ばれ、赤ちゃんを迎えるために環境を整えようとする本能的な欲求の表れである可能性があります。すべてを完璧に整えようとすると負担になってしまうため、「今日はここだけ片付けよう」と範囲を決めたり、パートナーに協力を求めたりして、負担を分散させていくとよいでしょう。

イライラを和らげる心のケア

体のケアと同じくらい、心のケアも大切にしてほしいと思います。特別なことをしなくても、日常の中でできる小さな工夫が、気持ちの波を穏やかにする助けになります。できる範囲で、無理なく試してみてくださいね。

気持ちを吐き出せる場所をつくる

ネガティブな感情を溜め込まず、言葉にして外に出すことはとても大切です。信頼できる友人や家族に話を聞いてもらうだけでも、心がスッと軽くなることがあります。もし身近な人に話しづらい場合は、日記に気持ちを書き出してみたり、SNSで同じ境遇のプレママと交流したりするのも良いでしょう。「辛いのは自分だけではない」と感じられるだけで、孤独感が和らぐ助けになります。

無理に明るくふるまわない

「妊娠中は幸せでなければいけない」「穏やかなママでいなければ」という理想にとらわれすぎてはいませんか?妊娠生活は幸せなことばかりではなく、大変なことの連続でもあります。イライラしてしまう自分を責めたり、無理にポジティブになろうとしたりする必要はありません。「今はそういう時期なんだ」と、ありのままの自分の感情を受け止めてあげてくださいね。自分に優しくすることが、結果的に赤ちゃんへの優しさにもつながります。

日常でできるリラックス方法

イライラを感じたとき、すぐに気持ちを切り替えられるリラックス方法をいくつか知っておくと安心です。特別な道具や場所がなくても実践できるものを集めました。自分に合いそうなものをひとつだけでも、生活に取り入れてみましょう。

深呼吸や軽いストレッチ

イライラしているときは呼吸が浅くなり、体が緊張状態にあることが多いものです。意識的にゆっくりと深呼吸を繰り返すことで、副交感神経が優位になり、気持ちを落ち着けることができます。また、医師の許可があれば、マタニティヨガや軽いストレッチを取り入れるのもおすすめです。凝り固まった筋肉をほぐすことで血行が良くなり、心身ともにリフレッシュできる時間になるでしょう。

好きな香りや音楽で気分転換

五感を刺激してリラックスすることも効果的です。ノンカフェインの温かい飲み物をゆっくり味わったり、好きな音楽を聴きながらぼーっとする時間を持ったりしてみましょう。ただし、妊娠中は香りの好みが変わることもあるため、アロマオイルなどを使用する場合は、今の自分が心地よいと感じるものを選んでくださいね。ほんの数分でも「自分のためだけの時間」を持つことが、心の余裕を取り戻すきっかけになります。

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食事や生活リズムで意識できること

心の安定には、毎日の食事や睡眠といった生活の土台も深く関わっています。完璧に整えようとしなくても大丈夫です。ちょっとした意識の変化が、気持ちの安定につながることもあります。できそうなことから、少しずつ取り入れてみてください。

血糖値の急な変動を避ける

空腹になりすぎてから食事をすると血糖値が急上昇し、その後の急降下によってイライラや集中力の低下を引き起こすことがあります。妊娠中は一度にたくさん食べられないこともあるため、少量の食事をこまめに摂る「分食」を取り入れてみるのも良いでしょう。ナッツや小魚、ヨーグルトなど、手軽につまめる栄養価の高いおやつを用意しておくと、空腹によるイライラを防ぐのに役立ちます。

少しでも質の良い睡眠を確保する

睡眠不足はメンタルヘルスの大敵ですが、妊娠中は思うように眠れない日も多いかもしれません。夜にまとめて眠れなくても、日中に短時間の昼寝を取り入れるなど、トータルの休息時間を確保するように心がけましょう。寝る前のスマホ操作を控えたり、抱き枕を使って楽な姿勢を探したりするなど、少しでもリラックスして眠れる環境を整えてみてくださいね。無理に眠ろうと焦らず、横になって目を閉じるだけでも体は休まります。

イライラがつらいときの相談先

「自分でなんとかしなければ」と、ひとりで抱え込んでいませんか?つらいときは誰かに頼ることも、大切なセルフケアのひとつです。「助けを求めてもいいんだ」と思えるだけで、心がふっと楽になることもあります。

パートナーや家族に素直に伝える

一番近くにいるパートナーには、イライラをぶつけてしまう前に「今はホルモンの影響でイライラしやすい時期なんだ」と伝えておくことが大切です。具体的な要望を言葉にして伝えることで、相手もどうサポートすればよいか理解しやすくなります。「察してほしい」と期待するよりも、「話を聞いてくれるだけで嬉しい」「家事を手伝ってほしい」と素直にお願いしてみましょう。二人の協力体制を築く良い機会になるかもしれません。

医師や助産師に相談してみる

もしイライラが強すぎて日常生活に支障が出たり、涙が止まらなくなったりする場合は、一人で抱え込まずに専門家を頼ってください。妊婦健診の際に、医師や助産師に今の気持ちを相談してみるのもひとつの方法です。専門的なアドバイスをもらえるだけでなく、第三者に話を聞いてもらうことで安心感を得られる場合もあります。心療内科や地域の保健センターなど、妊産婦のメンタルケアを行っている窓口もありますので、辛いときは迷わず相談しましょう。

まとめ

妊娠中のイライラは、赤ちゃんを大切に育てようと体が一生懸命変化している証拠でもあります。これは一時的なものであり、出産を終えてホルモンバランスが落ち着けば、自然と和らいでいくことがほとんどです。どうか自分を責めないでくださいね。「今はそういう時期」と割り切って、周りに甘えたり、家事を手抜きしたりしながら、嵐が過ぎ去るのをゆっくり待ちましょう。

m.i(ミィ)は、変化の多い毎日を過ごすあなたに、そっと寄り添いたいと考えています。できることから少しずつ、自分のペースで。完璧を求めなくても大丈夫です。あなたが少しでも穏やかな気持ちで、赤ちゃんとの対面の日を迎えられますように。