Vol.24

妊娠中にお風呂へ入っても大丈夫?入浴するメリットや注意点を解説【医師監修】

  • 2025.9.17
  • m.i journal vol.24
  • コラム

阿部 一也さん産婦人科専門医

東京慈恵会医科大学医学部医学科を卒業後、板橋中央総合病院に勤務。現在、同院産婦人科医長を務める。産婦人科領域における幅広い臨床経験を有し、妊娠・出産の周産期医療から婦人科疾患の診療、内視鏡手術まで多岐にわたり診療に携わってきた。確かな臨床力と丁寧な診療を基盤に、安全で信頼性の高い医療を提供。

妊娠中、お風呂に入ってもいいのかな?と不安に感じたことはありませんか。「長風呂は控えて」「体調がすぐれないときは避けて」など、気をつけたいポイントが多くて迷ってしまうこともありますよね。でも実は、お風呂に入ることは、妊娠中の心と体をやさしく整えてくれる大切な時間にもなります。この記事では、妊娠中の入浴がもたらすメリットや、避けたほうがよいタイミング、安心して取り入れるためのケアのコツまで、わかりやすく解説します。読んだあとは、お風呂の時間がもっと心地よく、自分をいたわるための習慣として取り入れやすくなるはずです。

妊娠中でもお風呂に入って大丈夫?

妊娠中でも基本的にはお風呂に入って問題ありません。ただし、妊娠の時期やその日の体調によっては、気をつけたいポイントがいくつかあります。ここでは、入浴がもたらす心と体へのやさしいメリットと、入浴するための注意点をご紹介します。

妊娠中の入浴は基本的に問題ない

医学的に見て、妊娠中の入浴自体は大きな問題とされていません。入浴によって血行が促されることで、筋肉のこわばりがほぐれ、疲れがやわらぐ効果が期待できます。また、ぬるめのお湯に浸かることで、精神的な緊張がゆるみ、ストレスの緩和にもつながります。妊娠中だからといってお風呂を避ける必要はありません。高温のお湯や長風呂は避け、体調に合わせて入浴時間や温度を調整することが大切です。

妊娠の時期ごとに適した入浴方法を意識する

妊娠の時期によって、体調や入浴時のリスクが少しずつ変わってきます。

  • 妊娠初期:つわりや体調の変化が起きやすい時期。短めの入浴やぬるめのお湯を意識しましょう。
  • 妊娠中期:体調が安定しやすくなる一方で、のぼせやすくなる場合もあるため気をつけましょう。
  • 妊娠後期:お腹が大きくなり、転倒リスクが高まる時期。浴室に滑り止めマットや手すりを取り入れるのもおすすめです。

どの時期であっても、「今日は少し疲れてるかも」と感じたら、無理せずやめる選択も大切です。

体調が良くないときは無理せず入浴を控える

少しでも体調に違和感があるときは、無理に入浴しないことが大切です。めまいや立ちくらみ、お腹の張りがある場合は特に注意が必要です。お風呂は体力を消耗するため、調子が悪いときに入ると余計に体に負担がかかってしまいます。無理に入浴を続けることで、倒れる危険性もあるので、体調がすぐれないときはシャワーで軽く済ませるなど、柔軟に対応するようにしましょう。

妊娠中にお風呂へ入るメリット

お風呂に入ることは、妊娠中の体と心にうれしい変化をもたらしてくれます。 リラックス効果や血行促進、むくみの軽減など、穏やかな毎日をサポートしてくれる働きがたくさん。
ただし、体調や妊娠の経過には個人差があるため、無理のない範囲で取り入れることが大切です。気をつけたいポイントを意識しながら、心地よいお風呂時間を楽しんでみましょう。

リラックス効果でストレスを軽減

妊娠中はホルモンバランスの変化で気持ちが不安定になりやすいです。お風呂に入ることで、副交感神経が優位になり、緊張がほぐれて心が落ち着きやすくなります。特にぬるめのお湯にゆっくり浸かると、ふわっと力が抜けて自然と気分がやわらぎます。毎日がんばる心と体をいたわる時間として、お風呂をうまく活用してみましょう。

血行を促して、冷えやすい体をあたためる

妊娠中は血液の循環が滞りやすく、手足の冷えを感じる人も少なくありません。ぬるめのお湯にゆっくり入ることで血流が促され、全身が温まりやすくなります。お風呂あがりには体がぽかぽかして、巡りのよさを実感できることもあります。体を冷やさないことは妊娠中の体調管理にもつながるため、無理のない範囲で入浴を取り入れてみてください。

むくみの軽減

妊娠後期になると、足のむくみに悩まされる方が増えてきます。お風呂に浸かることで水圧が脚にかかり、血液やリンパの流れがスムーズになります。これにより、足のだるさがやわらぎやすくなるのです。お湯の中で軽く足を動かすだけでも、筋肉がほぐれて気持ちもすっきりします。長時間同じ姿勢が続いた日には、お風呂でめぐりを整える時間を作ってみましょう。

筋肉の緊張を緩和させる

お腹が大きくなるにつれて、腰や肩に力が入りやすくなります。例えば、腰まわりや背中が重だるく感じるときには、温かい湯に浸かるだけでふっと軽くなることがあります。日常のこわばりをやわらげるためにも、お風呂時間を上手に取り入れましょう。

睡眠の質が向上する

妊娠中は眠りが浅くなったり、夜中に何度も目が覚めたりしがちです。入浴によって一度体温が上がると、その後ゆるやかに下がっていく過程で眠気が訪れやすくなります。特に寝る1〜2時間前の入浴は、ぐっすり眠るための準備にもぴったりです。心地のよい眠りは、体と心の回復にも役立つ大切な要素になります。

妊娠中のお風呂に入る際に気をつけること

お風呂はリラックスや体調管理に役立つ一方で、妊娠中はちょっとした油断が体に負担をかけることもあります。ここでは入浴前にチェックしておきたい基本の注意点をご紹介します。

お湯の温度はぬるめに設定する

妊娠中は熱いお湯を避けて、ぬるめの温度を保つことが大切です。目安としては38〜40度程度が理想とされており、体への負担を和らげてくれます。熱すぎると体温が上昇しやすく、めまいや脱水などの不調を引き起こすリスクがあります。お湯に手を入れて、ほんのり温かいと感じる程度を目安にするとよいでしょう。全身がじんわり温まるくらいがおすすめです。

入浴時間は短く10分程度に

長風呂は体に負担がかかるため、入浴時間は10分ほどにとどめましょう。妊娠中は血流や代謝が変化しており、のぼせやすくなる人もいます。あらかじめ時間を決めておくことで、入浴による疲労を最小限に防げます。体が十分に温まったら、無理に長く入らずに出るようにしましょう。短い時間でも、お湯に浸かるだけで体はしっかりと温まります。

入浴前後はこまめに水分補給をするように心がける

お風呂に入ると汗をかきやすく、知らないうちに水分が失われてしまいます。脱水を防ぐためにも、入浴前後にはコップ1杯程度の水を飲むようにしましょう。冷たい飲み物よりも常温の水や白湯が体にやさしく、吸収されやすいとされています。入浴後に喉が渇いていなくても、水分をとる習慣をつけておくと安心です。

転倒しないよう浴室環境を整える

妊娠中はお腹が大きくなるにつれて重心が変わり、転倒のリスクが高まります。滑りにくいマットを敷いたり、手すりを取り付けたりするなど、浴室内の安全対策をしておくことが大切です。シャンプーなどのボトルは足元に置かず、なるべく手が届く位置にまとめておくとよいでしょう。入浴中の動作は、急に立ち上がらず、ゆっくりと動くことで、転倒予防につながります。

妊娠中に避けるべきこと

お風呂は心身のリラックスに役立ちますが、妊娠中は避けたほうがよい入浴行動もあります。体調や状況によっては、入浴がかえって負担になることもあるため、無理のない範囲で取り入れることが大切です。ここでは、特に注意したい3つの行動について見ていきましょう。

熱いお湯に長時間入る

熱いお湯に長く浸かることは、妊娠中は控えたほうがよい習慣です。体温が急激に上がると、血圧が変動しやすくなり、めまいや立ちくらみを起こすリスクが高まります。また、体温の上昇が胎児に影響を与える可能性も指摘されています。お湯の温度は38〜40度程度のぬるめを目安にし、入浴時間も10分程度にとどめておくのが安心です。のぼせやすい方は、半身浴なども取り入れてみましょう。

食後すぐや空腹時の入浴

妊娠中は体のバランスが変化しやすく、入浴のタイミングにも少し気をつけたいところです。特に「食後すぐ」や「お腹が空いているとき」の入浴は、体調を崩す原因になることがあります。食後すぐは、胃腸が一生懸命に消化をしているタイミングです。その状態でお風呂に入ると、血液が分散されて消化がうまく進まなかったり、気分が悪くなったりすることも。また、空腹のときは血糖値が下がりやすく、立ちくらみやふらつきにつながることもあります。

入浴する際は、

  • 食後は1時間ほどあける
  • 空腹を感じるときは、少し何かを口にしてから入浴する

といった工夫で、体に負担をかけずにお風呂時間を楽しむことができます。

破水や体調の変化を感じた時の入浴

お風呂に入る前に、少しでも体に異変を感じたら、まずは無理をせず様子を見ることが大切です。

例えば、

  • 破水したかもしれない
  • お腹がいつもより張っている
  • 出血やめまいがある
  • なんとなく調子が悪い

こうした変化があるときは、湯船に浸かることで体に負担がかかるだけでなく、感染や転倒のリスクも高まる可能性があります。特に破水しているときは、お風呂に入ることで膣から細菌が入り込み、感染につながる恐れもあるため注意が必要です。少しでも不安を感じたら、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡を。「念のため」の行動が、あなたと赤ちゃんを守ってくれます。

妊娠中に温泉やスパを利用する際のポイント

妊娠中でも温泉やスパを楽しみたいと感じる方は多いかもしれません。ただし、妊婦の体はいつもと違い、些細なことが負担につながる場合もあります。体調や環境への配慮をしながら、無理のない範囲で利用することが大切です。ここでは妊娠中でも安心して温泉やスパを楽しむためのポイントをご紹介します。

妊婦に配慮した設備やサービスがある施設を選ぶ

温泉やスパを選ぶときは、妊婦への配慮がある施設かどうかを確認しましょう。手すり付きの浴槽や、段差の少ない脱衣所、休憩スペースが整っているかどうかがポイントです。また、妊婦専用プランやスタッフによる声かけがあると、より安心して利用できます。公式サイトや口コミを事前にチェックして、設備の内容を確認しておくと安心です。また、混雑する時間帯を避けるのもおすすめです。

肌や体への影響が少ない泉質か事前に確認する

妊娠中は肌が敏感になりやすいため、刺激の強い泉質はできるだけ避けたほうが安心です。例えば、硫黄泉(いわゆる硫黄のにおいが強いお湯)や、酸性泉(殺菌力が強く肌への刺激も強い泉質)は、人によってかゆみや乾燥を引き起こすことがあります。

一方で、単純泉(無色透明で成分が少ない)や、炭酸水素塩泉(いわゆる重曹泉、肌をやわらかくする効果がある)は、比較的肌にやさしく、妊娠中でも使いやすい泉質といえます。

泉質は施設のホームページやパンフレットで確認できることが多いため、事前にチェックしておくと安心です。不安がある場合は、直接施設に問い合わせてみるのもよいでしょう。

感染症リスクや長距離移動の負担を避ける

公共の温泉やスパは不特定多数の人が利用するため、感染症のリスクがゼロではありません。特に妊娠中は免疫が落ちやすいため、衛生管理の行き届いた施設を選ぶことが大切です。また、遠方への長距離移動は体に負担がかかるため、できるだけ近場の施設を選ぶのが無難です。交通手段や移動時間も含めて、無理のないスケジュールを立てるようにしましょう。

医師に相談をする

妊娠中に温泉やスパを利用したいと考えている場合は、事前にかかりつけの産婦人科医に相談すれば安心です。体調や妊娠の経過によっては、控えたほうがよいケースもあります。特に、切迫早産のリスクがある人やお腹の張りが続く場合は注意が必要です。医師に「今の自分の状態で行っても大丈夫か」を確認しておくことで、余計な不安を抱かずにリラックスした時間を過ごせます。

妊娠中のお風呂で体調不良になった時の対処法

入浴中やお風呂あがりに、急に体調がすぐれなくなることもあると思います。そんなときは、無理をせず、自分の体をいたわる行動をとることが何より大切です。ここでは、お風呂の途中や後に「ちょっとおかしいかも…」と感じたときの対処法を、ご紹介します。

すぐに浴槽から出て横になり安静にする

お風呂に入っている途中で「ふらつく」「息がしづらい」といったサインを感じたら、すぐに浴槽から出るようにしましょう。そのままお湯に浸かり続けると、血圧の変化によって意識が遠のくおそれもあります。浴室から出たあとは、やわらかい敷物の上などで横になり、深呼吸しながら体を落ち着かせるようにしましょう。無理に動かず、まずは安静を保つことが第一です。特に、妊娠中後期の方は、大きくなった子宮が下大静脈を圧迫するのを防ぐためにも、仰向けではなく左右どちらかを向いて横になりましょう。

十分な水分を摂取する

入浴中は気づかないうちに汗をかいていて、軽い脱水状態になっていることも。不調を感じたら、常温の水や白湯などをコップ1杯ほど、少しずつ口に含むようにしてみましょう。冷たい飲み物は胃腸に負担がかかることもあるため、体にやさしい温度の飲み物が理想的です。

涼しい場所で体を冷やす

お風呂上がりにほてりや息苦しさを感じるときは、涼しい部屋で休むようにしましょう。クーラーや扇風機を直接当てるのではなく、空気の流れを作って自然に体温を下げるのが理想的です。首元や脇の下、足の付け根などを冷やすと、体が落ち着きやすくなります。急に冷やしすぎると逆に体への負担になることもあるため、ゆるやかな体温調整を意識してください。

家族に助けを求める

ひとりで対処が難しいと感じたときは、無理せず家族に声をかけてください。体調が急変した際に備えて、あらかじめ入浴時間を家族に伝えておくと安心です。浴室にいる時間が長引いている場合や、応答がないときにすぐ対応できるようにしておくのもおすすめです。いざというときのために、連絡手段やサポート体制を整えておきましょう。

まとめ

妊娠中はからだの変化とともに、気持ちも揺れやすくなるもの。

「お風呂に入っても大丈夫かな」と、ちょっとした不安に戸惑うこともあるかもしれません。

そんな中でも、大切なのは無理をせず、自分のペースで過ごすこと。

お風呂の時間が、あなたの心とからだをそっとゆるめてくれるやさしいひとときになりますように。

mi(ミィ)は、そんな日常の小さな安心を、これからも届けていきます。

あなたの毎日が、少しずつ心地よく整っていきますように。