Vol.62

産後、疲れが取れないのはなぜ? だるさの原因と体をいたわるヒント【医師監修】

  • 2026.8.26
  • m.i journal vol.62
  • コラム

西野 枝里菜さん産婦人科専門医

東京大学理学部生物学科を卒業後、同大学薬学部薬科学専攻修士課程を修了。名古屋大学医学部医学科を卒業し、JCHO東京新宿メディカルセンターで初期研修を行う。その後、都立大塚病院で産婦人科後期研修を修了し、久保田産婦人科病院に勤務。基礎科学から臨床医学に至る幅広い学びと経験を活かし、産婦人科医として女性の健康を支えている。
資格:産婦人科専門医/母体保護法指定医/日本医師会認定産業医

産後、毎日のようにだるさを感じたり、疲れが取れないと悩んだりしていませんか。「周りはもっと頑張っているのに」と自分を責めてしまうこともあるかもしれません。この記事では、産後の体への物理的なダメージと、寝不足からくる精神的な疲れを分けて紐解きます。少しでも心が軽くなり、穏やかに過ごせるヒントが見つかりますように。

産後の疲れは2つの原因がある

産後の「疲れが取れない」「ずっとだるい」という感覚は、ひとつの理由だけで起こるわけではありません。大きく分けると、寝不足や気の張りが続くことで起こる心の疲れと、出産そのものによって生じる体のダメージがあります。この2つを分けて考えると、今のつらさの正体が見えやすくなり、休み方や周囲への頼り方も考えやすくなるでしょう。

寝不足や緊張で心が休まりにくい

産後は、夜中の授乳や寝かしつけで眠りが浅くなりやすく、気持ちまで張りつめたまま過ごしてしまうことがあります。赤ちゃんのお世話に慣れない時期は、「ちゃんとできているかな」と不安になる場面も多いものです。こうした積み重ねは、目に見えにくい心の疲れにつながっていく場合があります。

出産後は体のダメージから回復途中

産後の体は出血や傷の回復、子宮が元に戻る変化などに力を使っている途中です。会陰や帝王切開後の痛み、骨盤まわりのぐらつきが残ることもあり、思うように動けないこともあるでしょう。まずは、体がまだ回復の途中にあると知ることが、無理を重ねないための助けになります。

出産後の精神的な疲れとは?

産後の疲れを長引かせる大きな理由のひとつが、圧倒的な睡眠不足とそれに伴う精神的な消耗です。赤ちゃんが生まれると、夜中も数時間おきに起きて授乳や寝かしつけをする必要があり、まとまった睡眠をとることが難しくなります。十分な休息がとれない日々が続くと、思考力が落ちたり、些細なことでイライラしてしまったりするのも無理はありません。さらに、「私がしっかりしなきゃ」という責任感がプレッシャーとなり、心をすり減らしてしまうこともあります。精神的な疲れは目に見えないため、自分でも気づかないうちに溜め込んでいることが多いものです。まずは、今の自分がどれほど大変な状況で頑張っているのかを認めてあげましょう。

細切れ睡眠で気力が戻りにくい

数時間おきに目を覚ます細切れの睡眠では、脳が深く休まる時間が少なく、翌日もだるさが残りやすくなります。気力が戻らないまま朝を迎え、そのまま一日のお世話が始まることで、疲労感はどんどん蓄積していくでしょう。昼間でも赤ちゃんが寝たタイミングで、少し目を閉じるだけでも脳を休ませることができます。短い時間でも休むことを最優先にしてみましょう。

ひとりで背負い込もうとしてしまう

「家事も育児も完璧にこなさなきゃ」と自分ひとりで背負い込むと、心はどんどん窮屈になってしまいます。思い通りに進まないことへの焦りや孤独感は、精神的な疲れをさらに深める原因になることも。できない日があっても、それは決してあなたのせいではありません。「今日はこれくらいで十分」と、自分へのハードルを少し下げてあげることが、心を守る支えになります。

出産後の体へのダメージとは?

産後の体には、想像以上に大きな負担がかかっています。大きくなった子宮が元のサイズに戻るための収縮や、それに伴う後陣痛、さらに悪露と呼ばれる出血など、体内では回復のためにたくさんのエネルギーが使われています。また、分娩時の会陰の傷や、帝王切開によるお腹の傷が痛むことで、座るのも歩くのもひと苦労という場合も少なくありません。こうした物理的なダメージが落ち着くまでには、数週間から数ヶ月ほどかかることもあります。「休んでばかりで申し訳ない」と思う必要はなく、今は体をいたわることを優先したい時期です。

子宮の回復や出血で体力を使いやすい

産後の子宮が収縮して元の大きさに戻る過程では、強い痛みや違和感を伴うことがあります。また、悪露による出血が続く間は、貧血気味になりやすく、どうしても体を動かすのが億劫になるでしょう。血液が失われることで全身のエネルギーも奪われやすいため、鉄分を意識して摂りながら、なるべく横になって過ごす時間を増やすことが、回復を早める助けになります。

会陰や帝王切開後の傷、骨盤まわりの負担

会陰切開の傷や帝王切開の術後の痛みがあると、日常のちょっとした動作すら怖く感じてしまいますよね。さらに、赤ちゃんを通すために緩んだ骨盤周りの靭帯や筋肉も、不安定な状態が続いています。この時期に無理をして動き回ると、後々の体調不良につながる可能性もあります。痛みがあるときは決して我慢せず、ドーナツクッションを活用するなどして患部をいたわりましょう。

だるさを強めやすい産後のNG習慣

産後は体が回復途中のため、毎日のお世話だけでも十分に負担がかかります。そこに、抱っこや前かがみ姿勢、食事や水分補給の後回しが重なると、だるさや疲れが強まりやすくなります。頑張りすぎてしまう時期だからこそ、少し立ち止まって自分の体の声にも目を向けてみましょう。

抱っこや前かがみ姿勢

授乳やオムツ替えなど、産後はどうしても前かがみの姿勢が多くなります。さらに、成長して重くなる赤ちゃんを抱っこし続けることで、背中や腰の筋肉は常に緊張した状態になるでしょう。この緊張が蓄積すると、全身の血の巡りが悪くなり、重だるさとして現れやすくなります。授乳クッションを重ねて高さを調整するなど、できるだけ姿勢を楽にする工夫をしてみましょう。

食事と水分を後回しにする

赤ちゃんが泣いていると、温かいご飯を食べる時間すら惜しく感じてしまいますよね。しかし、母乳を作るためにも、傷ついた体を修復するためにも、十分な栄養と水分は欠かせません。食事を抜いたり水分が不足したりすると、回復のスピードが落ちてしまう可能性があります。片手でつまめるおにぎりや、ストロー付きのボトルを用意するなど、無理なく摂れる方法を見つけてみてくださいね。

自宅でできる心と体の回復を助ける工夫

産後の疲れを取るためには、まとまった時間が必要だと思いがちですが、日々の小さな工夫を重ねるだけでも体は少しずつ楽になっていきます。特別な道具や準備がなくても、自宅で今すぐ始められることがたくさんあります。ご自身の心地よさを優先して、できることから少しずつ取り入れてみてください。

短い休息でもこまめに取る

まとまった睡眠が取れないときは、5分や10分でも目を閉じて横になる時間を作ってみましょう。赤ちゃんがお昼寝をしたタイミングに合わせて、一緒にごろんと横になるだけでも体への負担は軽くなります。「この間に家事を済ませなきゃ」という気持ちを手放し、まずは自分を休ませることを第一に考えることが、結果的に穏やかな日々につながります。

体を冷やしすぎず、楽な姿勢を選ぶ

産後の体は冷えやすく、冷えがだるさや肩こりを悪化させる原因になることも。夏場でもエアコンの風が直接当たらないようにし、レッグウォーマーやカーディガンで温度調節を心がけましょう。また、座るときはクッションを背中に当てるなど、一番楽だと感じる姿勢を探してみてください。体を温め、リラックスできる状態を作ることが、回復への近道になります。

周囲に頼ることも大切

「母親なんだから全部ひとりでやらなきゃ」と気負ってしまう時もあるかもしれませんが、産後の育児は決してひとりで行うものではありません。むしろ、周囲の人に適切に頼ることは、お母さん自身の笑顔を守るためにとても重要なことです。身近な人に頼るのが難しい場合は、自治体の産後ケア事業や、民間の家事代行サービスを利用するのもよい選択肢です。周囲のサポートを上手に受け入れることで、心にゆとりが生まれ、赤ちゃんに向き合う時間もより温かく穏やかなものになっていくはずです。

助けてほしい内容を具体的に伝える

パートナーに手伝ってほしくても、「察してくれない」とイライラしてしまうことはありませんか。そんなときは、「お皿を洗ってほしい」「30分だけ赤ちゃんを見ていてほしい」など、具体的に伝えることでスムーズにサポートを得やすくなります。言葉にして共有することで、ふたりの間のすれ違いも減り、一緒に育児に取り組む心強いチームになっていくでしょう。

パートナーや家族と夜の役割を分ける

夜間の対応をすべてひとりで担うと、睡眠不足からの回復がさらに遅れてしまいます。休日前だけでもパートナーに夜の寝かしつけを任せたり、ミルク育児の場合は交代で起きたりと、負担を分け合う工夫が助けになります。ひと晩でもまとまって眠れる日を作ることで、体の疲れだけでなく、張り詰めていた気持ちもふっと軽くなるはずです。

こんなときは病院へ相談を

産後の疲れやだるさは、多くの場合は少しずつ落ち着いていきます。ただ、いつもの疲れとは違うつらさが続くときや、体や心に強い不調を感じるときは、ひとりで抱え込まないことも大切です。気になる変化があるときは、出産した医療機関やかかりつけ医に相談してみましょう。

強い痛みや出血、発熱があるとき

悪露の量が急に増える、強い腹痛が続く、傷の痛みが強まる、発熱があるといった場合は注意したいサインです。めまいや息切れ、強い頭痛を伴うときも、無理せず相談したほうが安心でしょう。「少し様子を見よう」と我慢しすぎず、早めに確認することが助けになります。

気分の落ち込みや不安が長く続くとき

涙が止まらない、何もする気が起きない、眠りたいのに眠れない、不安や焦りが強いといった状態が続くときも、病院や地域の相談窓口を頼ってみましょう。産後は心もゆらぎやすい時期です。つらさを言葉にして相談することが、回復への一歩につながる場合があります。

まとめ

産後に疲れが取れず、だるい日が続くのは、あなたの体が大きな仕事を終えて懸命に変化している証拠です。「もっと頑張れるはず」と自分を責める必要はありません。このつらさは一時的なもので、出産後の体が回復し、育児のペースをつかむにつれて少しずつ落ち着くことが多いでしょう。今は無理をせず、ゆらぎの時期を過ごしている自分自身を優しくいたわってあげてくださいね。

m.i(ミィ)は、 産後ならではの疲れやだるさを感じるあなたの毎日に、やさしく寄り添いたいと思っています。完璧を目指さなくても、十分に頑張っています。自分を大切にすることが、これからの穏やかな時間につながっていきますように。